校舎

 我々現代人は生まれてから小学校、中学校、高等学校と段階的に入学、卒業を繰り返して社会人になるために学校の校舎を大人社会の模擬練習の場として活用している。高校へ行かず中学校までの者は中卒などと呼ばれる。学校という建物は現代ではコンクリート作りの堅牢な建物が多い。まだ平成初期の時代には木造校舎が残っていた地方もあるのではないだろうか。

 エスカレーター式に難しくなっていく勉強とテスト、部活動などを集団の中に身をおき達成せねばならない。テストで赤点、勉強の出来ない者は社会から爪弾きにされあまり相手にされない。兎に角、成績優秀なら親も学校も生徒を褒めるのだ。学校のルールを守らない生徒も同じで社会の落語者の烙印を押される。生徒や教師も様々な問題を抱えいる。

 こうして集団行動の模擬練習のようなものをこなしこなされ大人社会の階段を登って行くのである。いずれ自分たちがランドセルを背負ったり学生服を着ていたことを忘れる頃には立派な社会人の仲間入りをしているわけである。



 ◆


 アットホームのようでそうではないこの冷たい校舎の教室の自分の席に座っていた。イデアから髙橋家に帰ってから授業を受けるつもりで登校したのだ。失踪して以来初参加だ。やっと現実に戻ってきたようなリアリティをカケルは取り戻しつつあった。現実とはこんなにも楽しいものなのかと感じていた。イデアにいる時も現実味はなかったが反対に学校生活もカケルにとっては微妙に現実感のないものに映っていた。イデアでも同じだったように似たような毎日が続いていく。それでも学校の行事というものがあるので退屈はしないかも知れない。


「失踪して以来。髙橋さ何か逞しくなったよな」

 名前は何だったかクラスメイトの男子生徒がカケルに言った。

「そうか俺はあんまり変わらないと思うけどな」


「どこ行ってたの北海道?」

 クラスメイトの女子が懐かしそうに話かけてきた。

「んまあそんなとこ」

「今度詳しく聞かせてよね」


「絶対女の子と何かあったでしょ」

 今度は別の女子がそう勘ぐってきた。

「ないないない何にもない」

 え、そうだっけか。

「嘘つき。顔に何かあったって書いてあるもん」

 本当だ。確かに嘘だ。


 ホームルームの時間がやってきた。

「今日は新しい先生を紹介する。次から国語を担当することになる楠木先生だ」

 担任の教師が言う。

「楠木です。よろしく」

 眼鏡をしているが、誰かに似ているとカケルは思った。そう次司祭のフロラと良く似ているのだ。


 ◆


 カケルと新任の教師である楠木は屋上にいた。

「カケル、久し振り」眼鏡を外してフロラは言った。「イデアからついてきたの?次司祭の仕事はどうするの」

「忍者みたいに隠れて一緒にあの列車に乗ってついてきたの。カケルが今度は日本での生活を私に教えてくれる?」

「それはできないよ。すぐにイデアに帰ってよ」

「帰り方を知らないの」

「それもそうだよね。どうやって教師に?」

「それは内緒」

「危ないことはしないで」

「時すでに遅しってね」

 まさかフロラさんがついてきてるとは思いもよらなかった。

「会いたかったよフロラさん」

 カケルはフロラを抱き寄せた。

「私もよカケル」

「本当にここで暮らすつもりで?」

「そうよカケルと一緒が良いと思ったの。お腹の中にカケルの子もいるけどどうする?まだ産まないという選択肢もあるわ。私との子でもいらない?それとも二人で育ててみる?」

 本当かよ。

「いやそれは不味いよ。まだ俺は十六で高校生だよ」

「今日あなたの両親にも話すつもりだから」

「たくこれだからイデアの人間は何をするかわからない」

 まだ夢を悪夢を見ているようだ。まさかあの時の子なのだろうか。あのイデアでの夏の夜の。そのためにまさか。違うよな。あぁ世も末だ。




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