異世界、語り部、そして
ロムブック
第一話 語り部
髙橋カケルは、
王国を救った傭兵あがりの騎士。
死者を蘇らせ王国に危機を
竜の背に乗りたった一人で戦争を終わらせた、選ばれた少女。
などの逸話があるのだ。
「ではカケル最初の質問です。順に正しく答えてください。良いですね。まずは最初の質問。あなたはどこから来ましたか?」
「こことは違う世界から」
髙橋は片膝を着いて辞儀をした。
「よろしい。では次の質問です」
「どうぞ神官」
神官は神聖だ。だがどうして神聖なのか髙橋はそれを知らない。
髙橋はまた頭を下げ辞儀をした。これは相手に対する敬意の表れなのだ。対峙する女性の神聖さに対する敬意なのだ。無礼をしてはこちらが叱られてしまうことを髙橋は恐れているが、そこまで硬くなる必要はないのだ。髙橋はまだ片膝を着いたままの姿勢だ。
「そこはどのような世界?」
語り部の女性は両手を広げて髙橋に聞いた。これはカケルを試すテストでもあるのだ。本当にこのイデアに相応しいかどうかの。嘘をついていないかどうかの。
「車が一日中走っていてうるさいです。それも公害のひとつで社会では迷惑になります」
「車...。」
「人を乗せて運ぶ台車みたいなものです」
「なるほど」
語り部の女性は髙橋のその説明に微笑み、姿勢をなおした。
髙橋は体調の変化を感じた。それでも表情を変えず真剣に続ける。
髙橋の額から汗が流れる。具合いが悪いのだ。
「では次の質問。あなたは今年で何歳になりましたか」
「十六です。この国の最長年齢は五十歳だと聞くので、まだ若いほうだと思う」
「そうですね。語り部グループの司祭がちょうど五十歳です。でも最高齢はもっと上、百歳を越える人もいる。」
「では最後の質問です。あなたはこの国に来て一体何をしましたか」
「イデア内の掃除をしながら、ずっとそう。帰る手掛かりを探していた。」
嘘を言っていないようだと神官は思い、頷く。
髙橋はこれまでの記憶を辿り逡巡した。
「帰る手掛かりとは何のことですか」
神官の表情が硬くなったのがわかる。重要なところなのだろうか。
「ここへ来た理由を、探せば、わかるんじゃないかと思った。でもそんなもの全くわからなかった。突然何の前触れもなく、気が付けばここファンタジー王国にいたと思う」
カケルはそこまで言うと、もう立っていられなくなり、その場に崩れ落ちた。こういうことがこの王国に来てから極たまにあるのだ。
「誰かすぐに来て」と言った神官の声を最後にカケルの意識が薄れた。
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