第4話【声にならない】
〇 稽古場(夕方)
いつものスタジオ。
力丸のボイストレッスンを受けている翔太。
その様子をもえが見学している。
力丸
「そこ、もっと息で繋いでみろ。
言葉じゃなく“想い”で歌うんだ。」
翔太
「想い…って言われても、ないんすよ。別に歌に。」
もえ
(急に口を出す)
「あるでしょ?だってこの前、
自分の“音”見つけたいって言ってたじゃん。」
翔太
(鋭く反応)
「もえさんに何がわかるんすか?」
空気が一瞬凍る。翔太、気まずそうに目をそらす。
力丸
(静かに)
「今日は終わりにしようか。」
⸻
〇 カフェ(夜)
圭吾ともえ。
圭吾はもえを気にかけて食事に誘ったらしい。
二人ともコーヒーを前に。
圭吾
「翔太、最近情緒が不安定だな。
自分で気づいてないけど、何かから逃げてる。」
もえ
(小さく笑って)
「力丸と同じこと言うんだね。あんたたち、やっぱ似てるのかも。」
圭吾
「俺と力丸、正反対だよ。だけど──」
言いかけて止まる。
もえ
「だけど?」
圭吾
「……俺もあいつに、勝てないと思ってる。」
もえ
「そんなこと思わなくていいのに。あんたはあんたじゃん。」
圭吾
(目を見て)
「それ、本気で言ってる?」
もえ
(目を逸らす)
「……さあ。」
⸻
〇 ゆい子の部屋(夜)
ゆい子とあこがダンス動画を見ながら振り写し中。
ゆい子、やたら集中できてない。
あこ
「ゆい子ちゃん、疲れてる?」
ゆい子
「……なんか、みんな“本音”言ってる感じしてさ。
置いてかれてるっていうか。」
あこ
「わかる。あたしも。
想い伝えたいけど…
“伝えること”が正解かわからなくて。」
ゆい子
(ぽつんと)
「あたし、力丸に好きって言いたい。
でも…もえさんがずっと特別なの見えちゃって、
無理。」
⸻
〇 力丸の部屋(深夜)
一人、昔のボーカル録音を聴いている。
そこに、突然電話が鳴る。翔太から。
翔太(電話越し)
「……力丸さん。
俺、もう歌ダメかもしれないっす。
舞台も…降りたほうがいいかも。」
力丸
「お前さ、何もかも諦める前に、
一回ちゃんと“誰かの声”聞けよ。」
翔太
「……それ、誰の声すか。」
力丸
「……お前の中にいる、“ほんとのお前”の声だよ。」
⸻
♪ミドルソング:もえ(ソロ)
🎵「声にならないこの想いが
風に舞って消えるとしても
私だけは 知ってる
あなたの本当の音を──」
⸻
〇 翌日・稽古場
翔太が稽古に来ていない。ざわつく空気。もえがみんなの前に立つ。
もえ
「……今日、私が翔太くんの代役やります。」
ゆい子
「え?セリフとか…」
もえ
「覚えてる。聞いてたから。」
圭吾
(微笑んで)
「じゃあ、“彼”の声になってくれ。」
⸻
〇 稽古シーン(劇中劇)
もえが翔太のパートを演じる。セリフではなく“翔太の痛み”を表現しようとしている。
もえ(劇中セリフ)
「誰もわかってくれないなら、自分で叫ぶしかない。
でも、その声も届かなかったら、
どうすればいいの?」
力丸がピアノで静かに伴奏をつける。圭吾は黙って見つめる。ゆい子が少し涙ぐむ。
⸻
〇 ラストカット
翔太が稽古場の外からその様子を見ていた。ドアを開けようとするが、開けない。
翔太(モノローグ)
「……ごめん、まだ中に入れない。」
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