世界救うって聞いてませんけど!?〜赤きツッコミ剣姫と天然森ガール〜

けんすけのり

プロローグ「願いが世界を越えた日」

 テストの点数が、人生のすべてだった。


 中学も、高校も、成績は常に学年トップ。模試の判定は常にA。進学塾では「令和の天才」とか持て囃された。親もとても喜び、期待をかけてくれた。


 でも。


(……あたし、本当にこれがやりたかったのかな?)


 有栖川カナメは、誰もいない教室の窓辺で、ゆっくりと目を閉じた。


 学年トップの天才――実際はガリ勉で引きこもりがち。友達もいない。家はそれなりに裕福だがそれだけだった。自分を押し殺し、勉強ばかりしていた理由はもう覚えていない。


 放課後の空は朱に染まり、遠くからは野球部の掛け声が聞こえる。けれど、彼女の中には、どこか満たされない空虚が広がっていた。


 カナメは小さく、けれど確かに呟いた。


「……やり直したい。生まれ変わりたい」


 強く強く強く、願った。


 ――次の瞬間。


 世界が、砕けた。


 床が消え、教室が溶け、彼女の身体は無重力に投げ出される。風も重力もない。ただ、まばゆい光だけが全方向から降り注ぎ――そして、声がした。


『――その願い、確かに受け取った』


 誰のものかもわからない、優しいけれど、ぞっとするほど無機質な声。


 目が焼けるほどの光の中で、カナメは目を閉じた。


 そして――


* * *


 次に目を開けたとき、彼女は森の中にいた。


 空気はやけに澄んでいて、葉の緑がまぶしい。鳥のさえずりが頭の上で響き、木漏れ日が頬をなでた。


 見たこともない植物に囲まれて、自分の手を見つめる。


 ペンだこがない。


 髪が、肩にかかる。色は――赤?


 水たまりに映る自分を見て、彼女は思わず声をあげた。


「……だ、誰!? え、あたし!? っていうか、赤髪!? 目、光ってるし!? 何コレ、アニメかゲームか異世界か~~~!?」


 混乱と絶叫の末、彼女は盛大に転んだ。


 ――こうして、有栖川カナメは異世界セレスティアに転生した。赤き髪の剣士、カナメ・アリスとして。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る