第3話

 少女が怒ったような、それでいて、また違った感情を含ませたような雰囲気を醸し出しながら顔を赤くして、街へ案内するように俺の前を歩いていた。


「今更なんだけどさ、名前、聞いてもいいか?」


 夢の中の住人だし、名前があるのかは知らないけど、と心の中で付け加えながらそう言った。


「な、なんで私があんたなんかに教えないといけ​──」


「言え」


 すると、また反発してきそうな感じだったから、やっぱり命令口調じゃないとダメなのかな? と思い俺は一言そう言った。


「はぅっ……ふ、フォル」


 幸運……いや、運命か? そんな感じの女神の名前が確かフォルトュナ、とかだったよな。それにしては随分と色々小さいけど……やっぱり、夢だから、俺の知識から名前が決められてるのかな。


「……な、なんか、言いなさいよ」


「ん? うん。いい名前だと思うぞ、可愛い可愛い」


「べ、別に人間なんかに……あんたなんかにそんなこと言われたって嬉しくなんてないけど、い、一応、あ、ありがとう」


 そのやり取りの後、何故か少女……フォルは俺の前ではなく、横を歩くようになり、そのまま街への案内を続けてくれた。

 

「今更なんだけどさ、フォル」


「な、何よ」


「その翼、隠したりしないで大丈夫なのか? 騒ぎになったりしないのか?」


 そして歩いている途中、ふとそんな疑問が浮かんだから、俺はそう聞いた。

 夢クオリティで大丈夫だったりするのか? と心の中で思いながら。


「え? あぁ、これ? 大丈夫よ。これは本来なら下界の人間には見えないものだし」


「俺には見えるんだが?」


「だから、本来ならって言ったでしょ。……あ、あんたは、私のご主​……わ、私のことをテイムしたんだから、み、見えるのよ!」


 ふーん。そういう感じなのか。

 ……フォルは生意気な感じだけど、翼は普通に綺麗だと思うし、少なくとも地上では俺だけが見えるって言われると、ちょっとだけ優越感があるな。


「こ、光栄、でしょ?」


「まぁ、優越感はあるよ」


「ふ、ふーん」


 そうして歩いていると、フォルの言う通り街が見えてきた。

 フォルがいてくれて良かったな。

 いや、まぁ、夢だし、どっちに向かってたって結果は同じだったかもしれないけどさ。

 

「高い壁だな」


「魔物がいる世界なんだから、当たり前でしょ」


 ……そういうものなのか。

 当たり前でしょって言われたって、知らないし。


「普通にこのままあの門から入れるのか?」


 そう思いつつも、そのことには触れずに、俺はそう聞いた。

 

「無理ね。私たちは身分を証明出来るものを持ってないもの」


 すると、絶妙に腹の立つ顔をしながらそう言ってきたから、俺は反射的に軽くフォルにデコピンをしてしまった。


「な、なにするのよ!」


 何故か少しだけ嬉しそう? な雰囲気を醸し出しながら、フォルは怒ったように? そう言ってきた。

 ……? 明らかに矛盾してるし、疑問に思うことはあるけど、まぁいいか。


「悪い。何となくだ。それより、中に入る方法は無いのか?」


「ふふん! 私を誰だと思ってるのよ! 私に任せておけば大丈夫よ!」


 フォルはさっき俺がデコピンをした部分を摩りながら、自信満々に胸を張ってそう言ってきた。

 ……俺のデコピン、軽くだったし、そんなに痛くなんてなかっただろ。

 後、なんでこんなにフォルは腹の立つ顔が上手いんだろうな。

 まぁ、ある意味可愛いのか。

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