嗚咽

鈴隠

1.

最初にそれを見たのは、職場の同期だった。


「お前、昨日泣いてたろ。なんかあったのか?」


唐突だった。意味がわからなかった。


「……何の話だよ?」


「駅前の公園でさ。声かけようか迷ったけど、放っておいた方がいいかと思って。」


昨日は寄り道もせず、真っ直ぐ帰った。

もちろん公園には寄っていないし、泣く理由もなかった。


「人違いじゃないのか?」


「いや、顔は見えなかったけど…髪型も、服も、リュックも、全部お前だった。肩震わせて、顔を手で覆ってて……泣いてたよ。間違いない。」


似たような奴がいただけだろうと笑い飛ばすと、彼もつられるように曖昧に笑った。

それで終わる話だと思っていた。


一週間後、彼は死んだ。


死因は心不全。

夜遅く、帰宅途中に倒れたという。場所は、駅前の公園。

彼が“俺を見た”と言った、あの場所だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る