感情が知りたい男

夕雲

感情が知りたい男

「マジで課長のやつふざけんなって感じだよな〜。殺してやりてぇ。お前もそう思うよな」

「全く」

「なんだよノリ悪ぃな〜。お前だって結構いびられてるだろ愛想がないとか言われてさ」

「あぁ……そうか。そうだな。じゃあ殺したいな」

「じゃあってなんだよw。相変わらず読めないヤツ」


場末の居酒屋。

今やたった1人となってしまった同期と酒を交わす。


目の前にいる同期はいつもそうだ。

事ある毎に俺をこうして飲みに誘い、愚痴を吐く。

これがきっと彼なりのストレスの解消法なのだろう。


対する俺はと言うとストレスは特にない。

会社でも。生きていく上でも。感じたことがない。

こうやって飲みに断らずに参加するのも、そうすることで喜んで貰えるからだ。


同期と解散し帰路に着く。

酒は飲んだが酔ったような感覚はない。


帰路には色々な人がいる。

路上で電柱に向かって何かを怒鳴り散らす人。

塾帰りで楽しそうに談笑する学生達。

辛そうな顔をし、哀しげな目をしているサラリーマン。

嬉々として腕をくみ歩くカップル等々……。


人は色々な人がいるのだと実感する。

皆が色々な考え方を持ち、色々な感情を吐き出している。


俺もそんな人の1人なのだが、どうにも彼らのようにはなれそうにもない。

課長に言われた愛想がないというのもそうだ。

ストレスも喜びも大きく感じれない以上、課長の言っていることはその通りなのだろう。


昔からそうだった。

小学校のよっちゃんが喜んでいた時も、中学校のあっくんが怒った時も、高校のみーすけが楽しんでいた事も、大学のさっさんが泣いて哀しんでいた時も、何一つ理解できないまま育ってきた。


遊ぶ事の何が嬉しいんだろう。

貰ったものを捨てただけで何で怒るんだろう。

誰かと一緒にいて何が楽しいのだろう。

ペットが死ぬことが何が悲しいのだろう。


しかし、それは世間では受け入れられないらしい。

だから俺は日々して理解できるように努力をしている。

愛想がないというのはまだ勉強が足りないからだろう。




「ただいま」


家に帰ったが挨拶がない。


「……まいったな」


パチンと頬を叩き、玄関で寝ているのを起こす。


「ッ……!」

「ただいま」

「あっ……お、おかえりなさい! 私、あなたが帰ってきてくれて凄い嬉しいわ!」

「うん。ながら迎えてくれてありがとう」

「あ……あ……」

「じゃあの様子も見に行こうか」


繋がれている鎖を持ちリビングへと向かう。

そこで待つ3つのの様子を見に行く。


「ただいま」


ドアを開けるとガシャンとリビングの方の鎖が鳴った。


「おいテメェ! いい加減この家から出しやがれ!」

「相変わらずいいっぷりだね。勉強になるよ」


怒は良好。



「帰して……お家に帰して……」

「家に帰れなくて、かい。やはり君が1番真実味があるね」


哀も良好。



「もう嫌だ……誰か助けて」

「…………」


ガンッ!


持っていたトンカチで殴りつける。

痛みが有効なのは本に書いてあった。


「ひぃっ! ごめんなさい!」

「違うだろ。君はだ。楽しまないと。楽しんでいる人間は笑うんだろう? ほら笑って」

「あ……あはは」

「うーん、やっぱり作りっぽいんだよな」


楽は相変わらず不調と。




「あぁそれと君」

「あぁ!? 何だよ出せよ!」


バゴッ!


鮮血が飛び散った。


「怒るのはいいが。近所迷惑だ。もっと静かに怒ってくれ」

「あがっ………………ごめんなさい……」

「違うだろ。殴られたんだぞ」

「…………! い……痛いだろ! 何すんだよ……!」

「そうそう。ちゃんと怒らないと」




「さて今日も私にを見せて教えてくれ」

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感情が知りたい男 夕雲 @yugumo___

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