目覚めたら大陸サイズのダンジョン最奥だった件。記憶なし少女、なぜかモンスターを一撃で倒せました
@kindsun
第1話 目覚めは、死の底で
目覚めたのは、音のない場所だった。
いや、音だけじゃない。風も、光も、匂いも、すべてがなかった。
だが、それでも“何か”が存在しているという感覚はあった。
重たい圧力が、空気の代わりに肌を撫でているようだった。
(ここは……どこ?)
目を開けていたのか閉じていたのかすら、すぐにはわからなかった。
けれど、徐々に視界に“輪郭”が浮かんできた。
……天井。岩。……いや、岩じゃない。ひび割れた金属のようにも見える。
身体の下には冷たい床。石のようでいて、ところどころ脈動する何かが走っていた。
自分が仰向けに寝ていたことに気づいた。
身体は……動いた。痛みも、痺れもない。けれど、それが逆に恐ろしかった。
自分が“自分”ではないような。
まるで誰かの体を借りているような、そんな不気味さがあった。
「……わたし……?」
口が勝手に動いた。
声は、幼い。女の子の声だ。自分でも驚いた。
なぜ私のような小さな女の子がこんなところに一人で?
ふと、そんな疑問が沸いた。
(ほかに人は.....?)
立ち上がる。重力はある。足元がふらついた。
周囲は高い天井と黒い岩壁。崩れた柱や、割れた魔法陣のような模様が地面に刻まれている。
何も知らないのに、なぜか「魔法陣」と思えた。
……その知識は、どこから来た?
とにかく、この空間は“普通”じゃない。
歩き出した瞬間、空気が肌にまとわりついてきた。
重い。濃い。息苦しい。
それなのに呼吸はできる。不思議な感覚だった。
道の先は真っ暗だった。
けれど、なぜか“このまま進めばいい”という感覚だけはあった。
まるで、見えない地図を知っているかのように。
……不安だ。怖い。
でも、それを押さえつける何かがあった。
(ここに、いちゃ……だめ)
本能的にそれを察した。
出口を求めて長い通路を抜けた先、広い空間に出た。
そこは天井の高いドーム状の部屋だった。壁一面に古代文字のようなものが刻まれ、足元には青白い光が滲んでいる。
圧迫感と、ざらりとした嫌な気配。
次の瞬間、気配が“跳ねた”。
地面が隆起するように、巨大な影が立ち上がる。
黒い体毛。筋骨隆々の肉体。赤黒い瞳。
地響きを立てて、それは現れた。
(なに、あれ……?)
《モンスター確認:ブラッドオーガ》
【種族】獣人型(オーガ系)
【レベル】1210
【ランク】S
【HP】38,900【MP】3,600【筋力】9,800【敏捷】2,100【魔力】1,100
【耐性】物理◎/火△/氷○/闇◎
【スキル】
・狂乱の拳・群れの指令・自己再生Lv1
【生息域】ヘルガ=ゾル中層・第42~56迷路帯
【特徴】獣人型モンスター。高い筋力と集団戦闘力を持ち、縄張りを強く意識する。
【備考】弱個体を見つけると集団で襲う。
私がそう思った瞬間、そのモンスターの情報が目の前に出現した。
(レベルせん...にひゃく.....?)
頭が真っ白になる。足がすくむ。声が出ない。
オーガがゆっくりとこちらを向いた。
目が合った。確実に“認識された”。
(逃げなきゃ……動け、足……!)
叫びたいのに声が出ない。
その場に立ち尽くすしかなかった。
オーガが吠えた。鼓膜が震える。
その瞬間、脚が崩れた。尻もちをついた。
逃げられない。ここで、終わる——そう思った。
が、
視界が、光った。
白い光が、周囲を満たした。
自分の手が、勝手に動いていた。
腕が、光を放っていた。魔力の奔流。
オーガが吠える前に、その光が奴の胸を貫いた。
ごぉっ、と空気が震えた。
オーガの身体がふっとび、壁に叩きつけられ、崩れ落ちた。
……死んだ。
一瞬で、死んだ。
「う、そ……」
声が震えた。
わたしが……やったの?
どうやって? なんで? わたし、何をしたの?
手が震える。
身体も、震えている。
勝てた。でも、それが怖かった。
(これ、わたしの力……?)
部屋を出た。
とにかく、ここに長くいたくなかった。
通路を進むたび、空間がねじれるような感覚があった。
壁が息をしているように膨らみ、天井が低くなったり高くなったりする。
視界の端に、何かがちらつく。
光? 影? 区別がつかない。
体内の何かが、ざわつく。
吐き気。恐怖。迷い。
しばらくして、別の部屋に出た。
そこで、またしても“何か”が動いた。
今度は、音すらなかった。
ただ、影が走っただけ。
それが目の前に現れた。
《モンスター確認:シャドウクロウ》
【種族】獣影型(闇性進化系)
【レベル】1480
【ランク】S
【HP】26300【MP】8900【筋力】3700【敏捷】12200【魔力】6400
【スキル】
・シャドウステップ・ブラインドクロー・影の連撃・気配遮断
【生息域】ヘルガ=ゾル深層・第60~70影の裂層帯
【特徴】高い敏捷性と隠密性を持ち、単独行動に特化した狩猟種。
【備考】狭所・暗所を好み、群れずに獲物を狙う習性。
(だめだ、逃げられない!)
意識する前に、目の前に迫っていた。
爪が振り下ろされる。
咄嗟に腕をかざす。
刃のような痛み。鮮血。
腕が裂けた——ような気がしたが、すぐに光が走り、傷が消えた。
それに驚いている暇もなく、反射的に魔力が炸裂する。
床が崩れ、通路が沈む。
爆風の中、シャドウクロウが消える。
再び逃げた。
走る、走る、走る。
怖い。自分の力が怖い。
この場所が怖い。自分がわからないのが、いちばん怖い。
息を切らして辿り着いた先——
白い空間だった。
光が静かに漂っていた。
だが、その中心に、何かがいた。
動かない。呼吸もしない。
けれど、そこに“在る”という存在感だけが、異常だった。
それは、獣だった。
けれど、透明で、結晶のようで、視界が歪んで見えた。
見てはいけない。
それなのに、目が離せなかった。
視界がひずむ。
空間が歪む。
「ヤバい」なんて言葉じゃ表せない。
(……アレは、だめ)
直感が、叫んでいた。
(アレに触れたら、壊れる)
背を向けて、逃げた。
足がもつれ、転びながら、それでも全力で走った。
どこかに落ちた。
空間が崩れ、地面が消えた。
重力すら変わった気がする。
気がつくと、暗いトンネルの底にいた。
けれど、あの結晶の存在からは、遠ざかっていた。
生きていた。
生きてしまった。
わたしは膝を抱えて、小さく丸くなった。
体が震えて止まらない。
涙が出た。
理由なんてわからなかったけど、止められなかった。
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