見つかった

卯月乙葉

見つかった

 聞いてください、悩みがあるんです。私にはどうしようもなくて、けれどどうにかしなくてはならないことなんです。どうか聞いてください。


 これは私の夢の話です。


 ふと気付くと、私はトイレにいました。自宅のトイレではありません。スーパーやショッピングモールなんかに整備されている、いわゆる民間トイレというやつです。そこは適度に清掃されているのか、公衆トイレよりも清潔そうに見えました。壁は白く、汚れらしきものは見受けられませんでした。


 私はトイレの個室の中ではなく、手洗い場付近にいました。トイレはそこそこ広いのか、五つほど並んだ個室は入口から離れた奥の方に位置していました。低い位置に取り付けられた手洗い場は何の変哲もありません。辺りはしんと静まり返っており、私の他には誰もいませんでした。


 ただ一つ目を引いたのは、手洗い場の壁に鮮やかな黄色い紙に黒文字の「不審者注意」のポスターが貼られていることでした。


 なぜ自分がここにいるのか分かりませんでしたが、そこは夢ですから何も疑問を持たず、ぼんやりとトイレに五分ほどいたでしょうか。入口から人の気配がしました。私は生来から人見知りをする性分でして、人様の目が気になって仕方がないんです。ですから、その気配がこちらへと近付いてくると分かると、思わず私は個室の方へと逃げました。そして一番奥の個室に入り、鍵を閉めました。隠れているという後ろめたさから、ただ静かに息を潜めていると足音はこちらへとやって来ました。


 コツ、コツ、コツ。


 それは私のいる奥の個室へと歩いてきました。五つほどある個室は全て空いていたのに。


 コツ、コツ、コツ。


 そのトイレの仕切りは上と下に空間が空いているもので、私は俯いて床の方を眺めて時間が過ぎるのを待ちました。


 やがて、靴履いた足が私の入っている個室のドアの前に現れました。


 そして声がしました。


「見えてるよ」


 それは明らかに頭上の方から聞こえました。その時点で私の息は止まりそうでした。しかし、私は恐る恐る顔を上げてドアの上を見ました。そこには。


 大きな頭に大きな両目と大きな口のある、人の形をした何かが、こちらを見下ろしながらニンマリと笑っていたのです。


そこで目が覚めました。



 先生どうか助けてください。またアレが私を見つけに来るのではないかと恐ろしくて堪らないのです。夢なのだと割り切ることもできません。アレは確かに私を見ていた。眠りたくありません、どうすればいいのでしょうか。



 先生、どうして私の頭上を見ているんですか。

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見つかった 卯月乙葉 @usag1_moon

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