4④

 後半が始まった。アスルヴェーラは選手交代が成功し、怒涛の攻撃で相手ゴールを脅かし、相手は防戦一方。ゴール裏の応援のボルテージも上がった。

 まだ四月なのに、スタジアムには真夏のような熱い風が吹いていた。もちろん実際に気温が真夏並みだったわけじゃない。応援する人の熱狂が、そして声援が僕の心を熱くした。長いこと僕の心にあった大きな穴に温かな水が注がれていくような不思議な感覚。

 沼津の誇りと書かれたタオルを高く掲げながら、ときには小さな体でぴょんぴょん飛び跳ねながら必死に歌う君を見ているうちに、僕は今まで無意識にあきらめていた何かを取り戻そうという気持ちにさえなっていた。

 試合は相手のカウンター攻撃で2点を失い、アスルヴェーラは敗北した。後半すぐの波状攻撃で得点できなかったのが響いたようだ。敗色濃厚になってからも、ゴール裏の熱い応援は続いた。試合後も自然発生的にアスルヴェーラコールが応援席から湧き上がり、無意識に僕も叫んでいた。

 アスルヴェーラは今までリーグ18位だったのが、今日の敗戦で最下位の20位に転落したようだ。でも帰りの車内で萌さんは上機嫌だった。

 「シン君の声援があたしまで聞こえたよ」

 「きっと空耳だよ」

 「照れなくていいじゃん。あたしのことは嫌いでいいから、アスルヴェーラは嫌いにならないでね」

 アパートに着くと、明日も来ると萌さんが言った。

 「平日も来るの?」

 「許してもらわないといけないからね」

 「夜来るの?」

 「夜はバイトがあるから朝来る。朝は何時に起きるの?」

 「五時」

 「なんでそんなに早いの?」

 「毎朝走ってるから」

 「スタイルいいと思ったら運動してたんだ。サッカーもすれば?」

 「見るのはいいけど、するのは片目だから無理」

 「そうだったな。ごめん」

 「謝らなくていい」

 「今日はありがとう」

 「僕の方こそ」

 ヤンキーは大嫌いだったはずなのに、萌さんと別れる前から明朝また萌さんがやってくるのを待ち望む気持ちになっていたのが不思議だった。萌さんに気づかれたらやっぱり惚れたんじゃんと馬鹿にされるだろうから、絶対に表情に出ないように気をつけなければ――

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