3②

 僕らはドアを挟んで言いたいことを言い合った。

 「絶対に許さないし、短歌会も辞めようと思ってる」

 「調子に乗ってると、おまえ殺すぞ!」

 「それが人にものを頼む態度なの?」

 「ごめん。あたし頭に血が上ると、何するか分からないやつなんだ」

 そんなこと言われたら、なおさらドアを開けられるわけがない。これだからヤンキーは嫌いだ。

 「短歌会の会長と話してるのを聞いて、ヤンキーにしては我慢強いと思ったんだけどな」

 「何の話だ?」

 「見た目と違って優しい子なんだね、と言われて怒り出さなかったじゃないか」

 「あれは、せっかくおばあちゃんを喜ばすために短歌の会に連れてきたのに、あたしがキレたら台無しになるから」

 「結局、木っ端微塵に台無しになったよね」

 「あたし、学校の先公に恨みがあるから、あんたが先公だと聞いて頭に血が上っちまったんだ」

 〈おまえ〉呼ばわりだったのが〈あんた〉呼ばわりに変わった。少しはクールダウンできたようだ。

 「僕は君が恨んでる先生じゃない」

 「分かってる。八つ当たりして本当に悪かったよ」

 教師というのは生徒に頼まれると渋った顔をしても結局は希望を叶えてしまう習性を持っている。もちろんドアの外にいる金髪ヤンキーは生徒ではないが、話していると出来の悪い生徒に思えてきて、話くらいは聞いてやるかという気になっていた。

 そのとき隣の部屋のドアが開いて、誰か出てきたようだ。確か四十歳くらいのおばさんが一人で住んでいたはずだ。

 「うるさいよ! 痴話喧嘩なら部屋の中でやっとくれ」

 「妊娠したと言ったら部屋を追い出されたんです」

 「その部屋の男は高校の先生だと聞いてるよ。任せときな。校長先生に伝えて、話し合いに応じるように言ってもらうから」

 「違います!」

 ドアを開けてそれは困るとおばさんに伝えようとした隙に、金髪ヤンキーは猫のように僕の横をすり抜けて部屋に入り込んだ。

 なんとかおばさんの誤解を解いて部屋の中に戻ると、金髪ヤンキーはリビングのソファーに腰掛けてのん気にタバコをふかしていた。ソファーは一つしかないから、僕はそばのベッドに腰掛けるしかなかった。

 「人の部屋で勝手に何やってるの?」

 「大丈夫。携帯灰皿持ってるから部屋を汚したりしないから」

 部屋の空気は思い切り汚しているけどね。僕はタバコを吸わないから、イライラして仕方がない。

 改めて金髪ヤンキーの風貌を見直すと、首には金色のネックレス。膝の辺りがパックリ空いたジーンズに上は白いTシャツ。Tシャツの生地が薄いのか、緑色の下着がうっすら透けて見えているから、正直目のやり場に困る。

 「ブリーフ派なんだな。うちのオヤジみたいだ」

 脱衣場に干してある下着を見られて笑われたけど、男女逆ならセクハラだと怒られていたに違いない。干してある下着を見て、さっき急いでいたから下着を履いてなかったことを思い出した。どうでもいいけどね。

 脱衣場の入口の戸を黙って閉めて、干してあるものが見えないようにした。

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