桃色

らいむぎ

桃色

桃色のマグカップ。


俺の一番のお気に入り。


表面には二匹のくまのイラスト。


いつ見ても、似てる。


でも、やっぱりあいつらの方が可愛いよな。



確かに俺には似合ってない。


こんな可愛いのは似合わない。


元々これは俺のものじゃない。



だけど、忘れたくなくて。


いつも、思い出せるように。


ずっと、守ってくれる気がして。


俺が、守ってやらなきゃいけなくて。



マグカップのひんやりとした感覚。


俺だけが感じてしまっていいんだろうか。


溜まったコーヒーから上がる湯気。


本当に温めたかったのは、これじゃない。



耳から聞こえる子どもの声色。


口から入る苦々しい後味。


桃色のマグカップの中で、否応なしにブレンドされて濁る。



「あ、そうだ」


引き出しから、スティックシュガーを取り出す。


真っ白の粉が、黒い液体に飲み込まれていく。


「もう、一緒に飲めるよな。」


昔を思い出すような、甘く優しい味がした。

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桃色 らいむぎ @rai-mugi

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