たぬきというか

ハルナ

第1話 転校生のたぬきは隣の席だった

高校2年の春。僕の通う青蘭高校もクラス替えがあり、新たなクラスに一喜一憂していた。僕はそこまでクラスメートと仲は良くない、所謂ぼっちというヤツ。それもそのはず、青蘭高校は僕の家から電車で15分ほど、さらに駅から徒歩5分。まあまあ遠い。おかげで出身中学からは僕以外誰も進学しなかった。まぁ、偏差値が少しだけ高いっていうのもある。

新しくなった教室で始業式を待つ。その前にホームルームもあるが。みんなどこか浮かれてて騒がしい教室。ガヤガヤしている教室。今の席は1番後ろの1番窓側。みんなの様子がよく見える。⋯席も教室も騒がしいのも嫌いじゃないんだけど、騒いでる方に入れないと、なんというか、虚しいな。僕は(現実逃避のために)お気に入りの本を読み始めた。


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ここでは始業式は2時間目に行われるので、1時間目は完全に学級の時間。まぁ、ホームルームは其の前で担任はその時に知らされる。ちなみに、僕のクラスの担任は去年も数学を教えてもらった若めの男の先生。クラスメート達は、まぁ可もなく不可もなくといった反応。1人はガッツポーズをしてたけどね。その子は数学がすごく苦手でよく特別に個別指導をしてもらってるって噂ができている男の子だった。

1時間目、チャイムがなるギリギリまで僕は本を読んでいた。チャイムがなってもすぐに行動に移せず、結局本は机の上に置きっぱなしにした。チャイムがなり終わるとすぐ先生は手をパンッと叩き、僕らを見てにっこり笑った後話を切り出した。

「2年からは新しい仲間が増えます。転校生だな。てことで、風野、入ってきてくれ。」

先生がそういうと、黒板傍のドアがガラリと開き、小柄な女の子が入ってきた。焦げ茶色の髪を頭の上の方で2つのお団子にしている。ここの制服の上には優しい緑色のパーカー。横顔だから余り詳しくは顔は分からないけれど、オン眉っぽい。あと丸顔。その子は黒板の前までぎこちなく歩いて来ると、黒板に名前らしいものを書いた。『風野恵』と丸っこくて可愛らしく書かれていた。

「え、えっと!う、うちは⋯!ッ〜!」

必死に自己紹介をしようとしている様子をみて、頑張れと応援の声が出てきた。僕は声には出さないけど、みんなと同じで転校生を応援をしていた。

「うちは、風野恵⋯です。え、と。“めぐみ”って書いて⋯その、“みのり”ってよ、読みま⋯す。す、好きな事⋯好きな事は食べる事。⋯その、あー、えっと、山の多い田舎?から来ました!よ、よろしくお願いし、しまひゅ!?」

最後に噛んだ風野さんは⋯めっちゃ可愛い。クラスメートも思わず笑ってしまった。バカにする笑いではない。こっちを向いた風野さんはやっぱり丸顔でオン眉。しかもタレ目でおっとりとした雰囲気。なのに、警戒心?緊張しい?で、すごく“何か”に似ていた。


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「みんな、クラスが変わったし風野への自己紹介も兼ねて今から全体へ自己紹介をします。と、その前に風野の席だな。風野はほら、1番後ろに空いてる席あるだろ。」

そう言われて、僕とは反対⋯廊下側の方の席を指さした。すると、

「あぁ!ごめん。反対の方、窓側の方の空席。そっちは季節外れのインフルで欠席したんだ。」

それを聞くとコクリと首を縦に動かした後、僕のいる最後列へ⋯ってあれ?どんどんどんどん僕の方へ⋯?

ここでやっと、僕は気づいた。

「あ、あの、よ、よろしく。」

僕の隣が空席だったこと。僕は少し気まずくなって自分の机に視線をやった。すると、もう1つ気がついた。本の表紙にいるデフォルのきいた動物たち。その中の1つ⋯⋯たぬき。あぁ、コレか。


僕の隣は転校生のたぬきらしい。


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