あなたとわたしの檻《せかい》

碧月なつめ

気が付いたらここにいた


多分病室だと思う

事故にあった

だけど、ここがどこにあるのか、自分の名前すらわからない。


毎日ここに来るあの人はわたしの事を知っていて、主治医であり恋人だったと言う。


「チハル」


それがわたしの名らしい


「ごめん、少しボーッとしてた」


今は2人でベッドに腰掛けながら話していたところだった。

苦笑しながら顔を見るとあの人─── マコトは頭を撫でてきた。


「ここから出られないのは窮屈だと思うけど、外には危険が多いから」

「わかってる、大丈夫だよ」


わたしは後遺症で身体がとても弱っているからと、細菌に感染しないようここに隔離されている


全部聞いた事


だから


それが本当なのかわたしには判断がつかない。


それにしても、今日はなんだかいつも以上に頭がボーッとする…


「?」


ふと視線を感じる。

そちらを見ると、撫でていた手を止め複雑そうな表情をしているマコトと目が合った。

あれ?何を話していたんだっけ?


「えっと……どうしたの?」


名前を呼ぼうとしたがなぜか出てこなかった。

それを悟られないように誤魔化す。

けれどそれも見破られているのだろう。

泣きそうな顔をしていたのに、わたしを安心させようと微笑みながら両手でわたしの頬に触れ、額を合わせてくる。

ひんやりとした、冷たい手が、額が気持ちいい。


「病気のせいだから…大丈夫、またすぐに良くなる」

「…」

「チハル?」

「…あ、うん…ありがとう」


話している最中なのに頭がボーッとしてしまう。

病気が酷くなってるのか…

少し寝ればマシになるのかな…


「ごめん、少し寝ていい?」

「…そうだね、ゆっくり休んで」


ベッドから腰を上げ、わたしが横になるのを見守られる。

横になると布団を掛けポンポンとリズム良く軽く叩いて眠りを促してくる。

子供じゃないんだから…と思いながらもだんだん眠気が襲ってくる。


少しだけ…

次起きたら今日聞けなかった外の話を聞こう。

外の…何を聞こうとしたんだっけ?



………外の…外…の…



       …そとって、なんだっけ?




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る