あなたとわたしの檻《せかい》
碧月なつめ
1
気が付いたらここにいた
多分病室だと思う
事故にあったらしい
だけど、ここがどこにあるのか、自分の名前すらわからない。
毎日ここに来るあの人はわたしの事を知っていて、主治医であり恋人だったと言う。
「チハル」
それがわたしの名らしい
「ごめん、少しボーッとしてた」
今は2人でベッドに腰掛けながら話していたところだった。
苦笑しながら顔を見るとあの人─── マコトは頭を撫でてきた。
「ここから出られないのは窮屈だと思うけど、外には危険が多いから」
「わかってる、大丈夫だよ」
わたしは後遺症で身体がとても弱っているからと、細菌に感染しないようここに隔離されているそうだ
全部聞いた事
だから
それが本当なのかわたしには判断がつかない。
それにしても、今日はなんだかいつも以上に頭がボーッとする…
「?」
ふと視線を感じる。
そちらを見ると、撫でていた手を止め複雑そうな表情をしているマコトと目が合った。
あれ?何を話していたんだっけ?
「えっと……どうしたの?」
名前を呼ぼうとしたがなぜか出てこなかった。
それを悟られないように誤魔化す。
けれどそれも見破られているのだろう。
泣きそうな顔をしていたのに、わたしを安心させようと微笑みながら両手でわたしの頬に触れ、額を合わせてくる。
ひんやりとした、冷たい手が、額が気持ちいい。
「病気のせいだから…大丈夫、またすぐに良くなる」
「…」
「チハル?」
「…あ、うん…ありがとう」
話している最中なのに頭がボーッとしてしまう。
病気が酷くなってるのか…
少し寝ればマシになるのかな…
「ごめん、少し寝ていい?」
「…そうだね、ゆっくり休んで」
ベッドから腰を上げ、わたしが横になるのを見守られる。
横になると布団を掛けポンポンとリズム良く軽く叩いて眠りを促してくる。
子供じゃないんだから…と思いながらもだんだん眠気が襲ってくる。
少しだけ…
次起きたら今日聞けなかった外の話を聞こう。
外の…何を聞こうとしたんだっけ?
………外の…外…の…
…そとって、なんだっけ?
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