特異点冒険者たちの会議
二日後、王宮のとある一室で、長いテーブルを九人の特異点冒険者たちのが囲んでいた。
「それで、今回の件。我々の中で現地にいたのはビヤレルさんと、クレッシェンドさん、そして最近特異点冒険者となったルロナさんですか」
そう切り出したのはスキル「偉大なる知恵」を持ち、通常よりも様々な属性の魔法を自在に操ることのできる賢者の「カルア・モル」だ。長い杖をテーブルに立てかけ、ローブをきっちりと身にまとっている。
そして、彼に続いて言葉を紡ぐものがいた。
「先ずは其の場の状況を知る者達の話を聞こう。私達は先日此処で何が起こったのか、詳しく知らぬ故」
彼女は「予知」のスキルを持ち、そのスキルの希少性と実用性から特異点冒険者へと選ばれた「ラズ・ヒュー」。ルロナにとっては厄介な人物だ。
「そもそも!お前のスキルでこのことを予知できなかったのか?」
若干の苛立ちを込めた言葉を投げつけるのは「ベイ・ノスター」。彼はスキルを持っていないが、純粋な身体能力のみで特異点冒険者へとのし上がった男だ。現代でいうところのワイシャツのようなものを着ていて、前のボタンを一切閉めていない。
「まあまあ、きっと何か事情があるんだよ。だよね?ラズ?」
二人の間を取り持つのはスキル「癒す者」を持ち、周囲の人間を精神的、肉体的に回復させることができる「ラックス」。
「……」
そんな三人を静かに眺めるのは「ケイス」。「観測者」のスキルを持つ少女だ。特異点冒険者ではないが、ラズと常に行動を共にしていて、この場にもついてきたようだ。実力も未知数。おそらくこの中で最も警戒すべき人間だろう。
「私は、見る未来を選択する事は出来ない。今回の件を未然に防げなかった事は、とても悔やまれる。然し、仕方ない事なのだよ」
「そうか。強く当たっちまって悪かったな」
「問題ない」
後のメンバーはクレッシェンド、ビヤレル、ニカリ・ニコリ、そしてルロナだ。
現地にいたメンバーの中で、ビヤレルが一番最初に口を開いた。
「今から状況を説明する。と言っても、私たちは全員少し遅れて戦場に参加した。途中からのことしか知らないが、許してくれ」
その後、天空の敵のことをクレッシェンドが、地上の敵をビヤレルとルロナがそれぞれ説明した。
「なるほど…。これは、他の兵士たちからも話を聞かなければなりませんね。」
カルアは顎に手をあて喉を唸らせる。それにベイも賛成した。
「そうだな。この中だけじゃ入手できる情報が限られているし…」
「では、ここは解散し、また後日ここで会議を開きます。異論はありますか」
誰も声を上げることはなかった。
「分かりました。明後日ここで集合しましょう」
そうして会議は終わった。他の特異点冒険者が部屋から出ていくのを見て、ルロナが椅子から立ち上がったとき、ラズが耳元で囁いた。
「私は君の正体を知っている。君が是迄にして来た事も、之からどう生きるのかも…。死者がこの世界に生きている。其れは女神の意思か…君の熱望か…」
ルロナは咄嗟に身を引き、距離を取った。ラズはこちらを一瞥し、歩いていった。その背中を見ていると、ケイスの姿が目に入った。彼女は目を細めながら、じっとルロナを見つめていた。彼にはどうすることもできない。特異点冒険者ということは、それなりの戦闘力もある。殺して口止めするのは難しいだろう。ルロナは強く拳を握りしめることしかできなかった。
ラズはケイスと手をつなぎ、歩いていった。
呆然と佇むルロナの肩にビヤレルが手を置いた。
「なあ、ちょっと話したいことがあるんだ。あの戦闘の時、お前、スキルをいくつも同時に使ってたよな?あれについて…」
ルロナはビヤレルの目を見た。言い訳は不可能。ルロナがビヤレルを殺すことはできないだろう。ならば、こう返すしかない。
「ええ…。もちろんですよ」
その答えを聞き、ビヤレルは静かに笑った。その笑みに、どんな意味が込められているのか…。少なくとも、その時のルロナの心は、不安に包まれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます