「…スキル発動」

 ルロナとファレナ、そしてビヤレルは、「ワイルド・グランド」と呼称された巨大な魔物の数を着実に減らしていった。しかし、敵の数は多く、高い戦闘能力を持たない一般の兵士などが次々とやられていく。

「まずいな、このままだと押し切られる…!」

「そうですね…」

 特異点冒険者であるルロナとビヤレルの二人にも少しずつ疲労が見え始めた。ビヤレルは既に数体倒しているが、ルロナはまだ孤立した1体を追い詰めているだけだ。そもそもルロナは暗殺をメインとしていた。サイズも他の生物とは比べ物にもならず、体術も通用しない。相性が悪すぎる。

 強力な魔法を広い範囲に撃てるファレナにも、とてつもない威力の剣撃を放てるビヤレルにも、ルロナは遅れをとっている。

「仕方ありませんね」

 できればやりたくはなかった。しかし、あの二人に任せっきりにするのは我慢ならない。

 ここで使えば、すべてが変わる。信頼と立場、隠していた意味も…。だが今は、そんなことを言っている場合ではない。

「…スキル発動。指令」

 ルロナがそう告げた瞬間、彼に倒されたワイルド・グランドが起き上がり、他の個体に攻撃を仕掛けた。

「はっ?!」

「なに…?」

 その様子に驚き、固まってしまっているファレナとビヤレル。ルロナは二人に、大きな声で告げた。

「二人とも!今私はスキルを使ってその個体を従わせています!」

「ルロナ…?あなた、スキル持ってないんじゃ…」

「詳しい話は後です!」

 そう言われてはっとしたファレナは魔物たちに向き直った。

 ルロナはもう一度、唱えた。

「スキル発動…速度増加、硬化、高熱」

 大地を強く蹴り上げ、すさまじい速さで突撃する。硬化し、熱を帯びた拳を、打ち上がる勢いを利用して繰り出す。

「おいおい。まじかよ…」

 その様子を見ていたビヤレルも、負けじと大剣に宿す魂の出力を上げた。

「さあ!まだまだこっからだ!」


 それからルロナはスキルを駆使し、多くのワイルド・グランドを追い詰め、「指令」のスキルを使って操り、その繰り返しをして戦線を押し上げた。

 ファレナの魔法によって焼き尽くされ骨しか残っていない魔物たち。肉体のいたるところが切り刻まれ、積み上げられて一つの山と同じ大きさになった死体の上に剣を突き刺し座っていた。

 指令を受けたワイルド・グランドは空の魔物にも手を伸ばし叩き落していった。

 これ以上の損害を受けるわけにはいかないのか、生き残った魔物が撤退していく。

「な、なんとかなったぞー!」

 疲労困憊の様子で地面に倒れ込む兵士たち、よく見ると、彼らも特別な力を持たないなりに、サイズの小さな魔物たちを相手にし、かなりの数を打ち倒していた。しかし、身動きが取れずうめき声を漏らす者や、仲間の体を抱えて涙を流すものもいる。

 こちらの陣営がどれだけの被害を受けたのか、把握しきれない。ルロナはその光景をじっと見つめていた。


 すると、空からある人物が降り立った。先程まで空で戦闘していた「スカイウォーカー」のスキルを持つ特異点冒険者、クレッシェンドだ。彼はルロナに声をかけた。

「よう、あんたがルロナか?」

「はい。そうですよ」

「空からあんたの戦いを見ていた。流石だな。特異点冒険者に選ばれるだけはある」

 そして、そこにファレナとビヤレルが駆け寄ってきた。

「ルロナ…!あんたスキルをいくつも使ってなかった!?」

「……」

 黙り込むルロナを見て、ビヤレルは言った。

「まあ、とりあえず魔物どもの残骸を処理してからだな。こんな事態だ。一旦、特異点冒険者全員を集めて会議を開いたほうがいいだろうな」

「そうしましょう」


 救護班が戦闘不能となった兵士を王宮に運んでいく。それを横目に、特異点冒険者三人と魔法使い一人は歩き出した。

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