森の奥にある施設
4人は森の中を進んでいった。
生い茂る草を掻き分け、地に落ちた枝を踏みつけながら。
太陽がちょうど、彼らの頭の上に来た頃。何やらひらけた空間に出た。
そこには焦げ臭い匂いが漂っていて、地面には焼け落ちた木とその灰が全体に広がっていた。
「雷でも落ちたんですかね?」
「それ以外にこんな風になることないだろうしね!」
「でも、最近はずっといい天気よ?雷が降ったなんて話も聞かないし、空気も乾燥してないわ」
「もっと昔に焼けたんじゃないかな!」
「いえ、匂いが残っているんですから、最近燃えたと考えるのが自然でしょう」
「確かに!」
結局、答えは導き出せなかった。
すると、ニコリが「変なの見つけた」と言って駆け寄ってきた。
ニコリについていき、先程の場所から少し歩いたところに、明らかに周囲の木よりも巨大な大木がたたずんでいた。
「これ」
そう言ってニコリが指差したところは、大木の太い根が露出したところの一部。
そのねじれた根と根の間には、大男でも二、三人なら並んで通れそうなほどの大きな穴がぽっかりと空いていた。
そしてその穴から、ファレナは微かに魔力を感じた。それに、感じた魔力はどうも、人間のものではなさそうだった。
ルロナは穴を覗き込んでみた。入り口付近は暗く、足元もよく見えない。しかし、奥の方に明かりと階段が視認できた。
ルロナはニコリに尋ねた。
「ニコリさん、ここってひょっとして…」
「……うん。そうだね。確定ではないけど、例の、魔族の集団の拠点かもしれない」
「じゃあ!突撃しちゃおー!!」
「兄さん、落ち着いて」
ニコリが、真っ先に走っていくニカリを制止して、それを横目に、ルロナが魔法を使って小さな火を指先に起こした。これを明かりの代わりに使おうということだ。
「皆さん、私についてきてください。くれぐれも、慎重に…」
「「オーケー」」「わかったわ」
4人は妙に広い空間を、湿って冷たい壁をつたいながらゆっくり進んでいく。
足音が反響し、小さな声で話しても頭に響いてくる。
しばらく行ったところで、何者かの話し声が聞こえてきた。
「クソ!あの野郎ども、次会ったらただじゃおかねぇ!」
「それいつも言っているじゃないっすか」
「しかしお前、よく生きてたな」
「死んでるんだって。スキルのおかげで生き返っただけで」
「しっかし、魔王軍のスパイを名乗るなんて、ずいぶん思い切ったことをしましたねえ」
「もしバレたら…まあ、命はないだろうな」
ルロナはそのうちの1人、なにやら苛立っている男の声に聞き覚えがあった。
怪しい魔法使いがいると依頼を受けて接触し、魔王軍のスパイを名乗っていた魔物。アソだ。
「ねえルロナ、あいつって…」
どうやらファレナも、そのことに気がついているようだ。
「ええ、アソという、以前殺したはずの魔族のようです」
「「戦ったことあるの?」」
「はい。ビヤレルさんと行動していたときに依頼で」
「「なるほど〜」」
「しかし、そのとき奴は魔王軍のスパイを名乗っていました」
しかし、彼はこんな木の下の穴に身を潜めている。
「ルロナ、もしかしてあいつ、魔王軍じゃないんじゃ…」
「ええ、そのようですね。魔王軍を名乗っていただけのただの一般的な魔族だったようです」
「なにそれ…」
ファレナがあからさまに眉を寄せる。
しかし、ルロナはこれで分かったことがあった。先程の燃えたような空間、それは以前、ルロナが凝縮ファイアでアソを倒したときに、その炎がアソから周囲の木々に広がったのだろう。
そして2人の会話を聞いていたニカリとニコリは「まずは作戦を立てよう」と言った。
まず、4人で話し声のするところをのぞき込んだ。そこにいる魔族は全員合わせて3人。アソと、トカゲのような見た目で剣と盾を持った魔物、そして身体が岩でつくられている身体の大きな魔物だ。
そして、ルロナが作戦の内容を示した。
「まず、奇襲を仕掛けてあのトカゲを真っ先に始末します。次に、以前戦ったことのあるアソを私とファレナさんで相手取ります。ニカリさんとニコリさんは、あの巨大な岩の魔物をお願いします。」
(この機会を利用すれば、この双子2人の実力をある程度把握することができるかもしれない)
「では、行きましょう」
「「うん」」「ええ」
戦闘態勢に入る3人の後ろで、ルロナは自身の心臓が熱く震えていることを感じ取った。
アソはスキルの力で蘇ったと言っていた。今回の戦いで殺し切ることができれば、その力はルロナのものとなる。
胸に手を当て、笑みを抑えながら、ルロナは3人の横に並んだ。
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