情報収集

 ビヤレルは「街に不審な動きをしている貴族がいるため、調査してほしい」という依頼を国王から直々に受けていた。それがビヤレルがこの街に来たもう一つの理由だ。

「せっかくだし」と、ルロナとファレナは彼女に協力することにした。


 3人はまず、その貴族に関する情報を集めることにした。

 しかし、世間にはいい噂のほうが多かったため、3人は手分けして、重要な役割に就いていたりした人物に話を聞くことにした。


 ビヤレルは、貴族直属の騎士団元団長「ゴチル」に目をつけた。

 ビヤレルは一通り状況を説明した後、ゴチルを問い詰めた。

「なあ、あんたはなんか知ってんだろ?」

 ビヤレルの決めつけるような言い方に、ゴチルは流石に戸惑った。しかし、冷静さを失わず答えた。

「変に確信してるところ申し訳ないが、騎士団は守る為の集団だ。そんな重要な情報は持ってない」

 もちろん、ビヤレルも引き下がらない。

「確信しようとしている理由なんて勘でしかないが、私の勘は凄い頼りになるんだぜ?分かるだろ、あんた」

 ビヤレルの勘が外れることは滅多にない。そのことは、ゴチルもよく知っていた。

 ゴチルは短く舌打ちをし、目を伏せた。そして頭の中に、ビヤレルの勘に救われた過去がよぎる。

「はーー」

 ゴチルは大きいため息をついて白旗をあげた。

「降参だ。まったく、あんたにゃかなわねえや。」

 ゴチルは姿勢を崩し、机に肘をついた。

「教えてやるが…落ち着いて聞けよ?あんたじゃ聞いてる間に走り出しちまいしそうだ」

「大丈夫だ。そんなに落ち着きがないわけじゃない」

ゴチルはゆっくりと、しかしどこか強い口調で語りだした。


 ファレナは貴族の教育係だった魔法使いの元を訪ねた。

「ごめんください」

 この魔法使いが住んでいるのは小さな家で、屋内には様々な種類の魔導書や魔導具が散乱している。

 そしてその奥、炎の光るろうそくが1本立っている机と、そのそばの椅子でとても分厚い魔導書を広げている女性がいた。

 その女性の名は「ヲネ」。ヲネはファレナの方を向き、笑顔で彼女の訪問を歓迎した。

「ようこそ。何かご用?」

「ええ、ちょっと聞きたいことがあってね…」

 ファレナは事情を伝えた。

「こういうことがあって…何か知ってることを教えてくれない?」

「いいわよ」

 ヲネは快諾した。それにはファレナも驚いた。

「ほんとにいいの?」

「あら、何か聞きたいことがあるから来たんでしょ?それに、教育係をやめたのも、ある出来事があったからなのよ」

「ある出来事……?」

「そうよ。できれば、あなたみたいな可愛い子に、あんな連中と関わってほしくはないのだけれど…。その目を見れば、あなたを止めることができないって分かるわ」

 そして本題に移った。ヲネはファレナに目を合わせ、丁寧に語った。


 ルロナは貧民街へのゲートの前にいた。

 この貧民街は普段生活している街とは隔離され、基本的には誰も近づこうとしない。

 普段生活している街よりも広く、どれだけ虐げられているのかをものがたっていた。

 ルロナはゲートに手をかけた。まったく使われていないせいか、ひどく錆びついていて重い。

 ギギギと音を立てて開いたゲートをくぐり、進みだした。

 ルロナをみた人々の反応は様々だ。引きつった顔をして顔をそらす者、好奇の目で見つめる者、ヒソヒソと噂話をする者。

 しかし、よく見ると、ここの住民は獣人しかいない。人間とは異なるところのある獣人は差別の標的にされてしまい、こんなところに追い出された。

 すると背後から当然、刃物を持った男が襲ってきた。ルロナはその男から刃物を取り上げ、それを首に突き刺した。ちらほら悲鳴が聞こえる。

(うるさいですね…。こんななんの情報も持たない奴に用はありません。ひたすらに邪魔です)

 ルロナは倒れた男を蹴り飛ばし、また歩みを進めた。ルロナが用があるのはこんな者ではない。

 この貧民街を取り仕切っている「ラクラ」という人物。そいつに会いに来たのだ。

 しばらく歩いたところ、この貧民街の中心地に、ひときわ大きな建物があった。

 門を開き、中に入っていった。

 そしてそこにラクラがいた。

「誰?何の用?」

「実は、少しお伺いしたいことがありまして…」

 ルロナはラクラに、貴族に関する情報を教えてほしいといった。

 ラクラは少し考え込んだ後、顔を上げた。

「分かった。ただ、僕たちの解放を手伝ってほしい」

 ルロナは目的のために必要なことなら、基本的に何だってする。この契約だってそうだ。

「ええ、もちろん、情報のためですから。協力させていただきます」

「契約成立ってことで…」

 ラクラは深呼吸をし、何もない空間を見つめながら語りだした。

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