特異点冒険者へ!

 ギルドに依頼で起こったことを伝えると、それを聞いた受付嬢は深刻そうな顔をして「そんなことが…。わかりました。すぐに報告しますわ」と言い、偉大なる使命を背負ったかのような足取りで奥へ駆けていった。


 特異点冒険者になるための手続きをするため、ファレナは依頼ギルドに待機し、ルロナとビヤレルは登録ギルドへ向かった。


 登録ギルドにつくと、中から以前の試験の案内をしてくれた受付嬢が出てきた。

「ルロナさんとビヤレルさんですね。お話は聞いております。こちらへ」

 そうして案内された場所は、前に冒険者登録の試験を受けたのとは別の場所だった。

 しかし、戦闘試験をするわけではないようだ。ルロナはてっきり、ビヤレルと戦闘してある程度の能力を測ったりするのだろうと思っていた。しかし、よくよく考えれば、特異点と、特異点になろうという者が戦えばどんな被害がでるか分からないのだから、やりたくてもできないだろう。

 ひとまず必要な書類に記入した後、通常の戦闘人形を強化した人形と戦闘した。パワーは上がっているようだが、防御もせず、ただ殴る蹴るしかしてこない。ルロナはため息をつきながら一歩引き、軽く腕を振った。たったそれだけで人形は崩れ落ちていった。それで登録は完了した。


 依頼ギルドへ戻る道中、ルロナとビヤレルは雑談をしていた。

「特異点冒険者になる試験だというのに、あまりにも簡単すぎて拍子抜けでしたよ」

「ああそれ、私も当初は思ったぜ。まあ、あれだよ、王国からの推薦を受けるだけの実績があるから、試験は大して重要じゃないんじゃないか?」

「それは確かに」

 そこでルロナはビヤレルにずっと気になっていたことを聞いた。

「ところで、ビヤレルさんは原初のスキル「強き者の使命」を持っていると聞いたのですが、どんな力なのですか?」

「ああ、この力は武器に魂を込めることができるんだ」

「武器に魂を?」

「アソとの戦いの時に見なかったか?私の剣が赤いやつをまとってたの」

「あれがあなたの魂なのですか?」

「そうだ。それに子供のときとは比べ物にならないぐらい色も濃くなって、威力も上がってるあたり、私の魂の強さに比例するのかもしれない」

 確かにルロナは、ビヤレルから大抵のことが起きても揺るがなそうな強い魂を感じていた。それが彼女の強さの鍵だというのなら納得できる。

「なるほど〜」

 できることならスキルを奪いたい。あのすべてを凌駕しする素晴らしい力を…。しかし、ルロナには彼女を殺せるビジョンが浮かばなかった。真正面から戦えば、ルロナ自身が殺されてしまうかもしれない。単純なパワーではビヤレルの方がはるかに上、アソからの魔法をもろに食らっても無傷なことから生半可な攻撃は通用しないだろう。

 少なくとも、今よりもスキルや魔法の使い方を工夫し、純粋な戦闘技術と力を鍛えなければならない。それでもかなわないかもしれない。

 ならば、無理に殺そうとする必要はない。そう、殺すことにこだわってはだめなのだ。殺さずに、自身の傀儡として使うほうが理にかなっているときもある。


 依頼ギルドに戻ると、ファレナが椅子に座ってうとうとしていた。かなり長い時間待たせてしまったのだから無理もない。

 彼女の寝顔は、ずいぶん無防備で子供らしかった。ルロナはそれに、今までに感じたことのない感覚を覚えた。そして、その柔らかい頬に声をかけ、起こした。

 「まったく、少女をこんな長く待たせるだなんて」とファレナは少しふてくされていたが「まあ、色々考える時間が、取れたからいいわ。あんたのこととか、今後のこととか」と言い、そこまで不満は無さそうだった。


 どうやらビヤレルはこの街に用があるようで、しばらく同行することになった。

 そうして3人で宿に向かった。

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