特異点冒険者への誘い

 依頼ギルドで、2人が依頼を受けるための手続きをしていたところ、冒険者であろう背の高い女性に声をかけられた。

「突然すまない、ルロナってのはあんたか?」

「そうですが…あなたは?」

 ルロナがそう聞くと、その冒険者は困惑したふうに言った。

「え?私を知らないなんてことあるのか?」

「ええ…冒険者の顔なんてあまり覚えてませんし…」

 そこまでの人物なのかと疑問に思い、周囲に目をやると、他の冒険者や依頼ギルド職員の視線がすべてこちらに向いている。歩いているものはそのまま硬直し、まるで時が止まったかのような空間になった。彼女から放たれる圧力によって、ティーカップに入った紅茶が揺れている。

 隣のファレナも、とても驚いた顔で硬直している。

 もう一度目の前の冒険者を見る。背はルロナよりも高く180センチほど、赤と黄色の混じった長い髪、背中には大剣を背負っている。しかしやはり、ルロナには心当たりがなかった。

 するとファレナが硬直から解き放たれ、焦ったように言った。

「嘘でしょ!?この人が特異点冒険者のビヤレル・マイバーよ!?前に話した、原初のスキルを持つ、あの!」

 それでようやくルロナは理解した。以前、ファレナが興奮した様子で語っていた、原初のスキル「強き者の使命」を持った特異点冒険者のビヤレル・マイバー。それが、いまルロナの目の前にいるこの冒険者なのだ。

 他の冒険者からの噂を聞いたことがあった。現在、特異点冒険者は8人で、それぞれ全員が単独で魔王軍の進軍を食い止めることができるほどの力を持っていること。

 そしてその8人の中で最も戦闘能力が高い存在がビヤレル・マイバーであり、その伝説は数え切れないほどあった。

 冒険者ではなかった頃に、魔王軍の幹部を無傷で撃破し、それによって国から特異点冒険者に指名された。

 巨大な山を一撃で3つ同時に消し去ったなどがあり、魔王が今大人しいのは彼女がいるからだとまで言われている。

「ちょっと話があるんだが…依頼について行ってもいいか?」

 厄介なことになりそうな気もしたが、断ったほうが厄介なことにたるのは間違いない。

 それにこの機会を利用して、この冒険者のスキルをしっかり把握して、その上でその後も交流のできる接点を持っておけば…。

 ということで、ルロナはビヤレルの同行を許可した。


 今回の依頼の内容は、「怪しげな魔法使いがいるから、確認してきてほしい」というもの。怪しいだけで付け回すのもどうかとは思うが、万が一街に被害がでたらまずい。

 2人は最近の依頼で、階級がものすごい速さで上がっており、さらに今のところ、依頼を失敗したこともない。そのため魔王軍の差し金でも問題なく対応できるだろう。と、依頼を受けることができた。

 それに加えて今回は特異点冒険者がついている。

「私がいりゃあ、どんなやつだったとしても大丈夫だ!」

 堂々とそう告げるビヤレル。ルロナは彼女の実力を把握しきれていない。しかし、先程のファレナやギルドにいた冒険者の反応を見ると、少なくとも一般的な冒険者とは比べ物にならないほどの戦闘能力を有しているのだろう。

 ファレナも先ほどから興奮が冷めていない。それほどすさまじい力を持っているのだろう。

 するとビヤレルが、ルロナに話しかけてきた。

「それで、さっきいていた話ってのなんだが…あんたに9人目の特異点冒険者になってもらおうと思ってな」

 それを聞くと、ファレナがルロナよりも早く反応した。

「ルロナを特異点冒険者に!?」

 ビヤレルはそんなファレナに「別にお前さんから離れることになるわけじゃない」と言ってなだめようとしたが、おそらくファレナが興奮しているのはそこではないのであまり意味はなかった。

「なぜ私を?」

 ルロナは疑問に思って聞いた。

「いや、別に私の意思じゃねえ。国がルロナ・デビラズを特異点冒険者に指名したんだ」

 どうも、突如現れた謎の実力者という噂が、国の大臣の耳に届いてしまったらしい。

「別に特異点冒険者になったからって、なんかしろっ!って言われるわけじゃねえから、そんな心配すんな」

 その言葉を聞き、ルロナはすぐに返答した。

「では、なりましょう。特異点冒険者に」

 もちろん、こう答えたことには理由がある。特異点冒険者ほどの地位を確保すれば、世間と敵対している組織の人間を虐殺したとしても、ある程度は許されるかもしれない。ということと、他の特異点冒険者と関わりを持てれば、強力な力を奪うことができるかもしれないというものだ。

 そんな考えを知らないビヤレルは「よし!決まりだな!」と言い、白い歯を出して笑った。

「じゃあまずは、その手続きの前にこの依頼を終わらせちまおう!ついでに私の実力、目の前で見せてやるよ!」

 そうして3人はまた歩き出した。

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