ルロナの過去
彼はとある大きな国の、地図にも載らぬような辺境に産まれた。
彼が生活していた場所は、その国の首都からしばらく歩き、山を5つ越えたところにあった。
どうしてそんなところに住んでいたのか、そんなことはルロナにはわからなかった。なぜならそれを知っている父親は生まれる前に姿をくらまし、母親はルロナに最低限の関わり方しかしなかったからだ。
しかし、しばらくすると母親は活力を失い、次第に何もしなくなった。
きっと、父親がいなくなった時点で母親には何も残されていなかったんだろう。あったのは、ルロナを育てなければならないという義務感だけ。それも、夫のいた証を残すためのものでしかなかった。
ルロナは放置され、食料を与えられることもなかった。
飲まず食わずで2日たったある日。ルロナは本能的に、生命の危機を感じていた。
ルロナは動き出した。台所に向かった。そしてそこから2本のナイフを取り出した。ろくな食べ物を食べることもしていなかったルロナには、ナイフはとても重いものだった。だが、それでも生きるために、ルロナは母親の寝室へ向かった。
母親は寝室で寝ていた。ゆっくり、ゆっくり、ルロナはそこに近づいていく。手が震える。それが恐怖からなのか、寒さからなのか、それとも興奮からなのか、それはルロナにも分からない。
そして、脇腹にナイフを突き刺した。母親はそれに気づき、ルロナを押さえつけた。ナイフを差した片方の手は動かすことができない。だが、もう1本、ルロナはナイフを持っていた。そのナイフは背中へ…。
その夜、ルロナは母親の体に火を起こし、食用の肉として処理した。人を食べるだけなんてことは良くないことだなんてことルロナにも分かっていた。しかし、空腹にすべてが押し流されていた。
ルロナは二度と、人の肉を食わないと誓った。何の味もしなかったから、ただ空腹を満たすだけのものを食いたいとは思わなかったから。
ルロナにとって、母親が死のうが、どうなろうがどうだっていい。食料になっている動物の命もどうだっていい。
自分が生きられれば、それでいい。
しばらくして、ルロナは家にあった本によって、都市の存在を知った。そこで、都市に向かうことにした。
言葉は自力で学習した。少なくとも、これで生活することはできるだろう。
家にあった金を袋に詰めて、ルロナは出発した。
当時、ルロナは十二歳。しかし、大した武器もない環境で動物等を狩りながら生活していたため、身体能力においては一般的な大人を凌駕していた。
道中の山で、登山中の人間を襲い、ある程度身なりも整え、ついに都市へたどり着いた。
ルロナはその後、個人の営む小さな店で働いた。
それと同時に、殺人も犯していた。この頃は、生きるため、あるいは身を守るために殺していた。
しかしあるとき、殺しに楽しみを見いだし始めた。人が死ぬ直前の恐怖の表情などではなく、殺しという行為そのものに。
次第にそれはエスカレートし、巨大な組織や、国の絡んだ組織を対象にし、最終的に、ルロナが生前殺した人数は、16374人となった。ただ、これはあくまで直接殺した人数であって、間接的に殺した人数は入ってない。
そんなことをしていては、国から排除の対象とみられて当然だろう。
殺人していたことが国にバレて、全国民が敵に回った後も、しばらくの間ルロナは殺人を続けた。
結果的に、ルロナを殺すためだけの兵器が開発され、それに殺された後、ルロナは罰として、女神の手によってこの異世界に送り込まれたのだ。
ファレナは、何かを考え込んだまま動かないルロナに声をかけた。
「お~い。大丈夫?」
それに気づいたルロナは一気に現実に引き戻され、ハッとした様子で答えた。
「ん?ああ、大丈夫ですよ。例の占いで言われた通り、過去について振り返っていただけなので」
「あ、そうなの?まあ、お風呂空いたから入っておいで」
「おや!ありがとうございます」
ルロナは風呂に入り、占い師の語っていたことと、その様子を隅々まで思い出した。
そしてとあることに気がついた。
「あの占い師…確かに私にとって重要そうなことを言いました。しかし、本質には触れていませんね。あれはあくまで…時間稼ぎ」
「一体、どこの差し金だ…?」
ルロナは様々な可能性を考えた。
「しかし、ファレナさんや私の過去について把握はしていた。そんなことができるのは…もしや…」
その頃、レルダはとある貴族へ話を持ちかけていた。
ルロナをおびき寄せるための罠と、それを実行した後の世界を支配するための計画を…。
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