研究所は襲撃するもの
ナユトの後ろに続いて、ルロナは森の中に入っていく。しかし、お互いに警戒しているからか、先ほどから一切会話がない。
沈黙を破り、ルロナがナユトに問いかけた。
「ところで、あの距離からこちらを観察できていたということは、あなた、スキルを持っているんでしょう?」
「ああ、俺は「拡大」のスキルで、遠くまで鮮明に見ることができるんだ」
「へえ…」
「お前はスキルを持ってないのか?」
スキル研究所。なんて怪しすぎる名前の組織に、自分がスキルを持っていることをバラす阿呆がどこにいるのか。もちろん、ルロナがわざわざスキルのことを言うはずもない。
「いやー、持っていたらもっと強くなれたんでしょうけどねー」
「あの強さでスキルはないのか…」
「残念ですね」
その後も、腹の底を探り合うような会話がしばらく続いた。
そして、森をかなり進んだところに、場所に見合わない真っ白な外壁の建物があった。
「ここだ」
ナユトはよくわからない板を操作し、扉を開いた。
「さあ、入って」
ルロナは言われるがまま、その建物の中に入っていった。
とはいえ、ルロナは彼らに協力するつもりはない。スキル研究所ならばスキル持ちも少しはいるだろう。それを奪うことが一番の目的だった。
そこそこの広さの建物を歩いて、まず行われたことが、主力メンバーの紹介だった。
「こいつが「硬化」のスキル持ち、ハイバー」
「よろしくッス」
「こいつは「高熱」のスキル持ち、アソニ」
「お…、お願いします…」
その後も2人ほど紹介されたが、ルロナにとって、人の名前も人間性なんてものもどうだっていい。重要なのは、彼らを紹介した後にナユトが言った「主力メンバー以外にも、スキル持ちはこの研究所にそこそこいる。みんな自分のスキルについてもっと知りたくてここに来ているんだ」という言葉だった。
その言葉を聞いたとき、ルロナのただでさえ暗黒な心にさらにどす黒いものが染み渡っていく。ここまでルロナの心が昂ったのは久しぶりだ。
「じゃあ、俺は個別に用事があるから、適当に交流していてくれ」
ナユトはそう言って去っていった。
ルロナは他の者たちと交流し、誰から殺し、どのスキルを奪うかを考え続けていた。
防音性能の高い個室で、ナユトは高笑いをした。
「しゃあ!もうちょっとであの化け物をうちに取り込めるぞ!あいつがこっち側になりゃ、この世をひっくり返せるかもしれねぇ!」
特異点に到達しかねないルロナを研究所に吸収すれば、どこにも負けることのない組織になることができる。ナユトはそう考えたのだ。
「あともう一押しだろうし、他の連中がうまくやってくれんだろ!まっ、この計画は俺だけしか知らないんだけど!」
そのとき、ランプが赤く点滅し、警報音が鳴り響いた。
「なんだ!?」
ナユトは部屋から飛び出した。そして周囲の状況に目を疑った。研究所の者たちの死体が散乱していた。白い壁が赤い血に染まり、鉄のような匂いが充満していた。死体の目には驚きの色が植え付けられており、その瞳が閉じることは永遠になかった。
すると廊下の奥で大きな音が聞こえた。悲鳴に混じって、不気味な笑い声。ナユトはそこに向かった。
ルロナは「速度増加」と「硬化」に「高熱」を組み合わせ、超光熱で鋭く頑丈な拳で音速を終えた打撃を繰り出していた。拳を繰り出すたびに空気が裂け、赤黒い湿った火花が散った。「硬化」と「高熱」はついさっき、今彼が踏みつけている死体から奪った。
いくつもの頭痛を受け入れ、ルロナはこれ以外にも多くの能力を手に入れていた。
ここに残っているのはナユトただ一人。しかし、彼にもはや命をつなぎとめるすべはない。
「人に巻き込まれて、そのまま協力するお人好しだと思ってたのに…あんなに穏やかな顔してたのに…お前…なんで…」
それがナユトの最後の言葉であった。
研究所にルロナを取り込もうとしたが、結果はルロナにスキルを取り込まれるというものだった。
ルロナは、大したこともないろくでもない組織なんて、利用できるだけ利用して、消し去ってしまえばいいとしか思っていない。
ファレナを持たせることはできないので、ルロナは今の殺戮で血まみれになった服と、ランニングタイガーを始末したときの服を、死体と共に燃やした後、スキルを奪うという目的を済ませたルロナは「速度増加」のスキルを使い、すさまじい速度で宿に戻った。「服の血がなかなか落ちなかった」とでも言えば大丈夫だろう。
宿に戻ると、もう眠っていたファレナを確認し、ルロナもその横で眠り始めた。
隣から静かなファレナの寝息が聞こえくる。彼女はきっと、ルロナのしたことも、ルロナがどんな人間かも知らず、穏やかで幸せな夢をみているのだろう。
もしかすると、彼女なら、ルロナを変えられるのかもしれない。ルロナの中から消え去った、幸福と愛を見つけ出すことができれば…きっと。
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