始めての依頼です!

 依頼ギルドに着いた2人は、中に入り、受付に向かった。

 依頼ギルドの内装は登録ギルドとは違い、かなり広く、質の良い机や椅子が沢山並んでいた。それにどうやら食べ物や飲み物の売店まで備わっている。どうやら、依頼ギルドは冒険者が依頼を受ける以外に、社交の場としての役割もあるようだ。

 さっそくファレナは、とりあえず初めての依頼だからと、ファレナとルロナの等級の中間の難易度の依頼を受けた。ファレナの等級よりも難易度が高く、ルロナは少し心配したが、ファレナは「依頼を達成するだけなら大丈夫」と言っておし通した。


 依頼の内容は、ゴブリンの巣、それも普通のよりもずっと大規模な巣の壊滅。

 その巣は巨大な山の中に造られていて、もちろんその中には膨大な数のゴブリンもいる。中は通路も部屋も狭いだろうし、ルロナはそう言う狭い空間での戦闘が好きではないのだが、仕方ない。と近づこうとすると。

「ちょっと待って!」

 ファレナがルロナを静止させた。

「え?どうしたのですか?」

「もうここらへんで十分よ。わたしの魔法、ちょっと派手なのよ」

 今いる場所は、その巣がある山から数キロ離れた平原。ルロナが困惑して固まっていると。

「わたしの後ろにいたほうが良いわ」

 とだけファレナは言い、ルロナがその指示に従ったところで、ファレナは杖を構えた。ファレナは深呼吸をしてこう唱えた。

「ファイア」

 その瞬間、空気が震え、杖へ引き込まれるような感覚がした。ファレナの杖からとてつもない温度と範囲の炎が放たれた。肌を突き刺すような熱に、空までも赤く染めるその炎はゴブリンの巣の山を包み込み、周囲の山もろともゴブリンとその巣を燃やし尽くした。

「……え?」

 流石のルロナもこれには困惑を隠せなかった。そして、ファレナに問いかけた。

「ファレナさん…?その力は…?」

 ファレナは晴れない顔で答えた。

「わたし、実績がないって言われてたでしょ…その理由の大半が、魔法の威力の制御が出来なくて、周囲に被害を出しちゃって、だから、できる依頼の数が少ないっていう…登録ギルドも一つ…更地にしちゃったし…」

「なるほど…」

 ルロナが感じたファレナの実績と力を比べたときの違和感、それはファレナが、ただでさえ多く、強力な魔力を彼女が制御することができず、人がいるところでは魔法を行使することができないから来るものだった。


 依頼を達成し、ギルドに戻った。「わー、なんか、だいぶ景色がスッキリしたね」「またあの子か…」「あれが敵だったら終わってたよな?」なんて声が聞こえてくる。

 依頼を達成したことで、ファレナの等級が5級から4級に上がっていた。ファレナは独り言のようにルロナに話した。

「こうやって規模の大きい依頼を受けていくのがわたしには合ってるんだけど、難易度が高い依頼ほど規模が大きいものが多いの。それを受けるには等級を上げなきゃいけないのよね…」

 まあ、頑張るわ。と言ってファレナがその場を離れようとしたところで、ルロナが引き止めた。

「ちょっと待って下さい!」

「どうしたの?」

「できれば、これからも共に行動していきたいのですが…」

 ファレナは困惑する。

「え?どうして?」

 そこで、ルロナはお互いのためになる提案をした。

「私はまだまだ知らないことが多いので、知識が豊富なあなたと同行して、知見を深めたいと思いまして。それに、ファレナさんにとっても、2級の私がいれば、難易度の高い依頼も受けやすくなるでしょう」

「確かに…」

 もちろん、本来の目的はそこではない。ルロナにとって、いま一番警戒しなければならないのは、魔法だ。

 どういう原理で、どうやって調節して、どういうふうに使い分けていて、放っているのか。もっとも、ファレナの場合は調節なんて出来ていないようだが、あれだけの威力の攻撃が出来るということ、それはルロナにとって脅威となる。あの力が敵として向かってくれば…ルロナとてただでは済まない。それどころか、消し炭にされてしまう。ルロナは、背筋を這う感覚を無理やり押し込めた。

 ファレナは「それじゃ、これからしばらくよろしくね」と言ってルロナの提案を承諾した。


 ルロナはこれから、魔法の対策と知識を深め、そしてあわよくば自身も魔法を使えるようになるため、研究を開始する。

 ルロナはファレナに聞こえないよう、小さな声で呟いた。

「ファレナさんの魔法がこの世界の基準でどの程度のものかは分かりませんが、あの力を私のものにできれば…フフ…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る