冒険者になりました!

 最初の戦闘試験が終わり、次は3対1での戦闘…と思っていたら、受付嬢から予想外のことが告げられた。

「先程のお詫びとして、3対1の戦闘はクリアしたことにさせていただきます」

「…え?」

 ルロナは少々がっかりしたが、「がっかりです」なんて言えるはずもないため、「いいんですか?」と付け足した。

 それに対し、受付嬢は答えた。

「はい、本来なら、複数体を相手にしたときのことを想定した戦闘方法と持久力などを測る試験なんですが、あのおかしな戦闘人形を倒したということは、通常の戦闘人形と3対1で戦っても勝つことができると思いますしね」

 「確かに」とファレナも同意する。

 戦闘試験クリア、ということはルロナは冒険者になることができたということだ。


 さっそく受付嬢はルロナに、銀色の円盤を渡した。そのその円盤の中心に光に反射する「2」という数字が刻まれていた。

「このエンブレムは冒険者の証です。真ん中の数字はルロナさんの等級を示しています」

「等級…?」

 受付嬢からの説明によると、冒険者には9級から1級までの等級があり、実績に応じて上がっていくらしい。中でも1級は生物が到達できる限界とまで言われているらしい。

「ルロナさんなら1級でも問題ないと思いますが、冒険者に合格したときから1級とするのはルールで禁じられていまして…」

「ああ、そうなんですか」

 するとファレナがルロナの背中を強く叩いた。

「すごいじゃない!冒険者になった瞬間から2級だなんて、滅多に見ない例よ!戦闘の達人でさえ、なれるか分からないレベルなのよ!」

 そして一息ついて、満面の笑みでこう言った。

「これであなたも冒険者!さっそく依頼、受けに行きましょうか!」

 ファレナはルロナの袖を引っ張って行こうとする。

「頑張って下さいね〜!」

 受付嬢もルロナを応援した。ルロナは褒められたり応援されたりした経験が少ないので、なんだか不思議な感覚になった。

 しかし、あの受付嬢は戦闘人形の対応に追われることになるだろう。これから大変そうだ。


 任務ギルドに向かう途中、ファレナが特別なスキルについての話を持ち出した。

「そうそう、この世に5つしかない原初のスキルってのがあるのよ」

「ほう」

「原初のスキルは「〇〇の〇〇」みたいな名前らしくて、普通のスキル、まあ普通のスキルでさえ強くて珍しいんだけど、普通のスキルよりもはるかに強力な力を持ってるの」

「へえ…」

 ファレナの説明によると、現在3人の原初のスキル所持者が判明しているらしく、1人は魔王の「支配の闇」、もう1人は「調律の輝き」、そしてファレナは残ったもう1人について、熱く語りだした。

「判明している最後の原初のスキル所有者!それは特異点冒険者、ビヤレル・マイバーで、スキルは「強き者の使命」!それで…」

「特異点冒険者?」

 ふと、聞いたことのない単語が聞こえたため、ルロナは聞いた。

「ん?ああ、特異点冒険者について説明してなかったわね。特異点ってのは冒険者の階級で、1級よりも上の階級なの。1級でも規格外なんだけれど、特異点はさらにその上をいくの。もはや生物を超越した規格外のなかの規格外。それが特異点冒険者」

「なるほど、そうなんですか…」

「それでねそれでね…」

 例の特異点冒険者について語ろうとするファレナに、ルロナはある疑問を投げかけた。

「ところで、所有者が分かっていない原初のスキルって…?」

「ああ、「力の渇望」と「欲望の権化」の2つよ」

 ファレナ曰く、「力の渇望」の今までの前任者は全員とても心優しく、戦闘を一切しなかったため、本来ならば戦闘で判明するスキルの能力が一切分からないのだという。スキルの名前は、初代の所有者が能力を知り名付けたのだという。しかし、その能力を誰かに伝えることはしなかった。

 あまりにも恐ろしい力だったのではないか、などの説があるが、それを知るのは「力の渇望」のスキルを手に入れた者だけだ。

 その後、ファレナは特異点冒険者語りを再開した。

 ルロナはそれを聞き流しながら自身に問いかけた。(私のスキルはなんだ)

 すると、スキルを奪ったときと同じ頭痛がし、同じ声が聞こえてきた。


―貴方の所有するスキルは、「力の渇望」です―


 これを聞いたルロナは、自身のスキルを初めて理解した。うまく行けば、神を超えられるかもしれないと考えたルロナはニヤリと笑った。その野望を誰にも悟られぬように。その笑顔は、「前任者は心優しく」というイメージとはかけ離れたものだった。

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