街へ行きましょう!

 ルロナは怯える少女をなだめるように、優しい声で語りかけた。

「ええ、この通り人間ですよ?確かに、一般人より少しは強いかもしれませんが」

 そのルロナの言葉を少女は否定する。

「いや、少し強い程度で済むはずがないわ。グループウルフは相当な実力者でも、基本的に群れで襲われたらなすすべなくやられてしまうの」

 少女の手は相変わらず小刻みに震えている。少しばかり汗もにじんでいる。

「いえいえ、戦闘に少しの工夫を加えれば、それほど難しいことでもないですよ」

「そ、そうなの…?」

 始めは強張っていた少女の表情も少し和らいだ。そこで、ルロナはすかさず話題をすり替えた。

「ところで、ここの近くに街や村などはあるのでしょうか?」

「え?ああ…あるわよ。何か用があるの?」

「最近故郷からでてきまして、何をすればいいのかよくわかっていないんですよ…」

「ああ…なるほど」

 もちろん嘘である。元の世界にいたときから、様々な人をだまして山奥などに連れて行っていたため、このくらいはお手のものである。

 とりあえず、向かいながら話をしよう。ということになった。


「私はルロナ。先ほども言いましたが、故郷からでてきたばかりで、よく知らないこともたくさんありますが、よろしくお願いします」

 ルロナの自己紹介に少女も応えた。

「わたしはファレナ。なりたての冒険者」

「ほう!冒険者ですか!」

「なんで驚くの?それほど珍しい職業じゃないでしょう?」

 ルロナは冒険者という職業。そしてそれは珍しくないということで冒険者はかなりの数がいるということを知った。

「ちょっと聞いてもいいでしょうか」

「何を?」

「スキルの存在についてなのですが…」

「え?スキルのことを知らないなんてことある?」

 こう返されることは予想通りだ。女神から教えられたこと、「一般的な人は厳しい生活を強いられている」それならば、ろくな教育を得られていない人々もいるであろう。

「すみません…」

 ルロナがそう言うと、ファレナはハッとしたようにし、気まずそうに言った。

「いや、わたしの考えが足りなかったわ。ごめんなさい。教えてあげるわ」

 そしてファレナはルロナに、「スキル持ち」という特別な存在や、スキルそのものの解説をした。スキルが先天的なものなのか、成長とともに目覚める後天的なことなのかは判明していないのだという。

「なるほど〜。そんなすごい物があったのですね〜」

 ルロナは群れのボスを倒した時に聴いた声を思い出した。それは、ルロナが「スキル持ち」であること、そしてルロナの持つスキル「力の渇望」が殺した「スキル持ち」からスキルを奪うものであることを教えてくれた。

 ルロナは驚喜した。手当たり次第に生物を殺していれば、自身がいくらでも強くなれるということが判明したからだ。

 もちろんそれを口や顔に出すことはしない。怪しまれてしまうかもしれないからだ。

 すると、ファレナは少し寂しそうに呟いた。

「わたしも「スキル持ち」だったら、もっと強くなれたのかな…なんて」

 ルロナは内心では、ファレナのことを騙しやすく利用しやすい少女としか認識していないが、励ますため言葉をかけた。

「大丈夫ですよ。少なくとも私の目には、あなたはとても強い存在に見えています」

 ファレナは照れたように「ありがとう。御世辞でも嬉しいわ」と返した。

 続けて、ルロナはファレナに聞いた。

「ところで、私は魔王を倒したいと考えているのですが…どうすればいいのですかね?」

「え…?なんで魔王を?」

 世界を平和にすることが女神から言い渡された使命。しかし、そんなことを言えるはずもないので、ルロナはでっち上げの嘘を情熱的に語った。

「魔王を倒し、奴が原因で苦しんでいる人々を助け、魔物との交流を妨げるものを消し去ることで、世界の平和に貢献したいのです!」

 ファレナは少し驚いた様子で言った。

「あなたがそんなにすごい夢と決意を持っているなんて思わなかった」

 ファレナは微笑んで、彼の決意に応えた。

「なら、まずは冒険者になるところからね!あの数のグループウルフを倒せたあなたなら、もしかしたら魔王もたおせるかもね!」


 そうこうしていると、ルロナの想像をはるかに超える、都市ともいえるほどの大きな街が見えてきた。

 その街は、建物よりも大きな石で作られた壁に囲まれていて、空には物を輸送するためのものとみられる機械らしきものが行き来していた。

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