彼のスキル
狼の死体が山のように積み重なり、ルロナは火を起こして後始末する準備をした。
しかし、火をつけることはしない。なぜなら、まだ一匹、おそらく群れのボスだと思われる図体の大きな狼が残っていたからだ。
しかし、その狼もすでに瀕死、右前脚を失い、腹を裂かれ、片目を潰されている。もちろん、ここまで追い詰めたのはルロナ自身だ。
「いやー、すごい生命力ですね!ここまでの規模の群れの長になれるのも納得です!」
ルロナが、死体の山を見あげながら群れのボスに語りかけた。
「それほどの根性と戦闘力…。人間でもそうそういませんよ!」
ルロナは笑顔でゆっくり歩み寄り、狼の目の前まで来た。狼には、その狂人から逃げるだけの余力は残されていない。
ルロナはそんな狼の頰をそっと撫でた。
「大丈夫です。あなたはよく頑張りました」
そして、素手で狼の頭を貫いた。
狼のボスを殺したとき、男性と女性の声が重なったような声が多少の頭痛と共にルロナの脳内に響いた。
―特別個体の殺害を確認。スキル発動。個体の所有スキル、指令を獲得―
―スキル指令とは、自身に服従を誓った生物に指令をだし、可能な範囲で従わせることが可能なスキルです―
ルロナは頭を押さえ、疑問を口にした。
「なんですかこれは…。スキル?」
スキルについて、女神は説明をしなかった。下手をすれば、ルロナの暴走を助長してしまうかもしれないからだ。
「女神は何も言ってませんでしたよね?これは一体…」
女神がどうしてルロナにこのことを説明しなかったのか…それはルロナの恐ろしいスキルのせいにある。
ルロナのスキル、その名を「力の渇望」と言う。このスキルは、人間を含めた生物に稀に出現する「スキル持ち」というスキルを持った存在。それを殺害した際に、対象のスキルを奪い、自身のものとできるというものである。
スキルは神でさえ操作ができない。そのため、少しでもルロナが人を殺すことがなくなるよう、女神はルロナにスキルに関する知識を与えなかった。
だが、ルロナはスキルを発動させてしまった。ルロナを夜明けまでこの世界に送らず、引き留めておけば狼の「スキル持ち」をルロナが殺すことはなかったかもしれない。このミスが、後にどのような結果をもたらすのか…。
ルロナは狼達の死体を燃やし、晴れた空を見あげた。
「おや、気がつけばもうすっかり朝ですね!さて、街を目指して出発ー…」
ここでルロナは、重大なことに気がついた。
「あれ?そもそも街ってどこにあるんですか?というか、街は存在するんですか?女神から言われたことからすると、人々の階級はあるようですが国とか、街とかがあるのかは聞いてませんでしたね…」
すると、背後から突然、声が聞こえた。
「この数のグループウルフを一人で仕留めたの!?あなた…本当に人間?」
ルロナが振り向くと、そこには、身体の大きさに合わないブカブカのローブを羽織った、肩の少し下に届く青い髪に魔女帽を少々深めにかぶり、杖を手に持った少女が少し怯えたように立っていた。
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