ごきげんよう!異世界!
目を覚ますと、ルロナは広い草原のど真ん中に放り出されていた。
起き上がり、周りを見渡すと、もうだいぶ暗くなっている。
「神のくせに、時間を調節して辺りが明るくなっているときにだすことはできなかったのですか?」
ルロナは考える。自分が死んだのは深夜。そして意識が途絶え、完全に死にきるのに少なくとも30分から1時間は掛かるだろう。そこから女神のところで話をし、転生が告げられるまで少々、転生し、目が覚めるまでしばらく会ったとすれば、夜明けはそう遠くないかもしれない。
「仕方ありません。夜が明けるまでここでゆっくりしてましょう」
ルロナは案外呑気であった。急いでこの世界を知ろうとするでもなく、環境に興味を示すわけでもなく、横になった。
すると、どこからか遠吠えが聴こえてきた。その方向に目を向けると、森があり、中になにかの影が見えた。
ルロナはそれがなんなのかよく観察する。深夜に人を殺すことが多かったルロナの目は暗闇に適応していた。
「狼…のようにみえますが…なんでしょう?」
先程の遠吠えの意味を、獲物を見つけ、仲間を呼ぶための合図だと解釈した。
「もし仮に獲物をみつけたとして、一体何を対象にしているのでしょうか」
ルロナは森の方、自分の周囲、そして狼の視線を見た。その結果、ある答えにたどり着いた。
「あれ?これ私が狙われてません?」
ルロナは最悪の状況を考える。今は手元に武器がない。さらにあの狼がどれほどの力を持っているのかも分からない。群れで一斉に来られたらなすすべなくやられてしまうかもしれない。
ならば。
「こちらから行きましょう」
その狼との距離は約500メートルほど、ルロナの脚ならば、そうかからない。奴の周囲には他の生物の姿は確認していない。
あとから来るであろう仲間も、奴から順に先に着いた奴から仕留めてやる。
そう判断したルロナは勢いよく走り出した。
人よりも大きい狼らしき生物のところまで行き、気に絡まっている蔦をとり、落ちていた程よいサイズの石に巻き付ける。
狼は、近づいて来たルロナに、仲間を待っている場合ではないとでも思ったのか、大きな口を開けて飛びかかった。
ルロナは蔦と石を組み合わせた物を構え、姿勢を安定させ、角度を調節し、目一杯遠心力をかけて放った。
すると、石の直撃と同時に、狼の頭部の上半分が木っ端微塵に吹き飛んだ。
狼は倒れ、血だと考えられる赤黒いものが飛散した。
「おや、案外あっけなかったですね!」
ルロナは狼の仲間が来る前にと、そいつの分厚い皮を素手で引き裂き、まっすぐで長い骨を取り出した。
そしてその骨に石を叩きつけた。
骨は驚くほど鋭利で、殺意の塊のような見た目になった。
そのとき、背後から風が揺れる感覚があった。自然のものとは違う、生物が起こす風。
二体の、先ほどよりも手強そうな狼だった。
一体の攻撃をかわし、後に続いていたもう一体の狼に飛び乗り、さっき新調した骨の剣で脳天を一刺し、切れ込みから手を突っ込み、無理やりに開く。血が吹き出し、狼は生物としての機能を失った。
もう一体は、蔦と石の武器で、一撃目で脇腹をえぐり、二撃目には頭部の横半分を潰した。
ルロナはふと、森の外を見やる。大量の狼がこちらに向かっている。
ルロナは「人でないのが残念ですが…」と溢し。歯茎を出して笑った。
「この世界でも殺しができるだなんて!!女神もお優しいのですねえ!はは!ははははは!」
ルロナひどく高揚した。
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