第20話:契約

『ありがとうございます。これで僕はこの世界に魔力で出来た仮初めの体とはいえ、存在する事が出来ます。』

『これで俺の願いは全て叶うわけか?』

『ええ、僕にはその力があり願いも叶えられます・・・が、今の僕の体は魔力で出来た仮初めの肉体。しかも、あなたの魔力を借りなければ力を発揮できません。つまり、本当の肉体が必要です。』

『何が言いたい?』


するとフルーレティは眼鏡を指で直しながら、ため息をついた。


『ハァ・・・察しが悪いですね。つまり、僕があなたの肉体を貰えばすべての願いが叶うと言っているのです。』

『肉体を貰う?何を言っているんだ?』

『あなたは僕に肉体を差し出して一体となれば力は使い放題。つまり、至高の存在となるのです。』

『一体になる?そこに俺の意識はあるのか?』

『そんな無駄なものはいらないでしょう?』


彼はそう言い、使役している4精霊たちに命令を下した。

『拘束せよ。』


精霊たちが俺の体にまとわりついてきた。

『何の真似だ?』

『これからあなたの自我を破壊し、肉体を乗っ取らせていただきます。苦しみはないですから、安心してください。』

『まて!たしか契約したからには、絶対服従だったよな?』

『よく覚えていましたね。その通りです。しかし、残念ながらそれは僕の真の名前で契約した場合のみです。』

『真の名前?フルーレティじゃないのか?』

『違いますね。』

『違うのか・・・それは、助かったな。』

『・・・何?』


俺はニヤリと笑い、逆に命令を下す。

『土下座しろ!』


彼は突然、頭を地面に四つん這いになり頭を地面に擦り付けた。

『うぐっううううう・・・なんですか、これは!』

変な声をこぼしながら、地面に頭を擦り付けて文句を言っているフルーレティ。

かなり無様である。


『おいおい、体を乗っ取るんじゃないのか?早くやってくれよ。』

俺は彼の前でしゃがみ、今までの仕返しとばかりに頭をぺしぺし叩いて煽った。


『馬鹿な!お前は体を拘束されているはず、なぜ動けるのですか?!』

『どうも契約をした相手に危害を与える事はできないようだな。』

『契約・・・しかし僕の真の名を知らないお前では・・・。』

『お前の真の名前って【フラウロス】だろ?』

『なぜそれを?』

『悪魔は真の名前を知られると服従しなければいけない。そんな事は召喚士としては常識だからなあ・・・すでに貴様の名前など調査済よ。』

『何という事ですか・・・悪魔がはめられるとは!』

『人間様を舐めるなよ!』


実のところは召喚士の常識など知っているはずもない。

漫画やゲームでなんとなく悪魔について知っていただけの知識である。

それに真の名もステータスでカッコ表示されていて怪しいから、もしかしてと思い付きで入力しただけなのだが、それは黙っておくことにした。


『お前達悪魔は、いつもこんな事をやっているのか?』

『当然です。僕たちの目的は、世界を破壊することですから。』

『何のために?』

『そのために存在しているからです。』


どうも悪魔の思考は俺達人間には理解出来ないようだ。


(この様子だと、邪教徒たちが悪魔を召喚して世界に混乱を及ぼしたとか言っていたが、本当は悪魔に体を乗っ取られて、罪をなすり付けられたのかも知れないな。彼らが崇拝していた女神というのも、そのとばっちりを受けたのかも?)


しかし、こいつをどうするかが問題である。

こんな奴を使役していたら絶対服従とはいえ、何を企むかわからない。

とはいえ数少ないガチャで手に入れた戦力を無駄に捨てるのも困る。


俺が悩んでいると、ヒルダが姿を現した。


『マスターどうした?』

『ああ、こいつをどうしようかと思って。』

『ふーん、そうなんだ。どんな顔をしているか見たい。』


そういえばずっと頭を地面に擦り付けさせていたので、顔が全く見えない。

たしかにこのままは少し可哀そうだ。

命令で顔だけ上げさせると、今までとは違う鬼の形相でこちらを睨んできた。


『おいおい、そう睨むなよ。今まで騙して来た連中の屈辱はお前とは比べ物にならない・・・因果応報ってやつだ。』

『私はヒルダ。あなたが新しい召喚獣?』

『ヒルダ?たかが召喚獣などに興味などない・・・いや、この感じ・・・まさか、そんな事が・・・。』


先ほどの怒りに満ちた表情や態度が、驚きと畏怖に変わった。


『なんだ?どうしたんだ?』

『いえ、なんでもありません。ヒルダ様・・・とマスター、今までのご無礼をお許しください。これからは心を入れ替えて尽くしていきますので、許してくれないでしょうか?』

『当然どうしたんだ?』


彼はあきらかにヒルダを見て態度が変わった。

知り合いなのだろうか?


『お前はヒルダの事を知っているのか?』

『知りません・・・何も知りません。』

『ヒルダはこいつの事を知っているのか?』

『知らないな。見たことがない。』


よくわからないが、ヒルダの方が彼より高位の存在なのかもしれない。

彼が心を入れ替えるなどは信じられないが、ヒルダが抑止力になるなら裏切る事もないのかもしれない。


『まあ、いい。これから役立ってもらうからなフルーレティ・・・いや、フラウロスと言った方が良いか?』

『真の名を言うのはやめてください。』

『ではこれから頼むぞフルーレティ。』

『今後ともよろしくお願いいたします。』






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