第9話:意思疎通

俺達はマイという女性を助けて、彼女の村に向かって歩いていた。


「君の村は近いの?」

「いえ、そこそこ遠いです。」


(そこそこってどれくらいなんだろう?)

こんな森の中のそこそこはかなり遠い可能性が高い。

それに彼女は小柄だがなかなか強そうな体つきをしている。

茶色い髪と顔には飾り気が一切なく、登山に来るような頑丈そうな服を着ているのを見ると、花を摘みに来たただの村娘ではないようだ。


「この森ってさっきのスライムとかがよく出るの?」

「はい、この森は魔物が多数生息しているの出くわす事があります。」

「魔物って・・・さっきのスライムとかもそうなのか?」

「ええ、悪魔が生み出したモノなので。」

「悪魔?」

「大昔に悪魔がいて、その手下が魔物らしいですね。」

「今はその悪魔はいないのか?」

「勇者が退治したらしいので、今はいません。昔話ではそうなってますね。」


(悪魔や勇者がいたかもしれない世界?もしかして、不穏なものっていうのは悪魔の事なのだろうか?)


なかなか面白い話を聞けた。

とりあえずは勇者や悪魔について調べてみるのもいいかもしれない。


「それより、戦士様は凄いですね。スライムを無傷で倒してしまうなんて。」

「・・・。」


彼女はヒルダに羨望の眼差しを向け、積極的に話しかけているがヒルダは何も返さない。

その不自然な態度に疑問がわいた。


「ヒルダ、どうしたんだ?」


ヒルダは俺に向かって語り掛けてきた。

『私はマスター以外と意思疎通ができないの。言葉ではなく心で話しているから。』


たしかに最初に彼女と話している時は口を動かしていなかった。

今は兜で口部分も覆われているのでその事に今まで気付かなかった。


(心で話す・・・もしかしてそれは俺も可能なのか?)

とりあえず、話しかける感じでヒルダと意思疎通をはかってみる。


『ええ、今の感じです。』

『これは凄い。遠距離でも可能なのか?』

『それは無理だと思う。私の体は召喚士からあまり離れると維持できない。』

『そうなのか?』


おれはその事について説明を確認すると、召喚獣は召喚士から一定範囲離れる事はできないらしい。

ただ、その範囲はレベルアップと共に広がるとも記載していた。


(それならレベルを上げていけば遠距離で行動も出来るし、意思疎通が出来るのか。反則的な能力だな。)


「あの・・・ずっと見つめ合ってどうしたんですか?」

「え・・・ああすまん。彼女は声が出ないんだ。だから話す事は出来ないが、話している事は理解しているよ。俺はなんとか目で意思疎通できるからね。」

「目で?もしかして・・・そういう関係なんですか~?」


若い娘特有の恋愛脳による質問がきた。

そんな話題とは全く無縁だった俺には不快感より、新鮮さがあった。


(普通はそう考えるのか。別にそういう設定にしてもいいが、嘘はすぐにばれる。とはいえ召喚獣がこの世界ではどういう扱いかわかってない以上、何でも言ってしまうのは危険だな。)


「いや、そういう関係ではないが、誰よりも信用している仲間だよ。だから邪推はしないでほしいな。」

「ふ~ん、そうですか~。」


彼女はまったく信じてない感じで俺達を見ていた。

まだ何か聞きたくて仕方ない様子だったので、会話の方向を変える事にした。


「しかし、君は何でそんな危険な森に入ったの?」

「この森には貴重な植物があって、それらを採取する事で私の村は成り立っているの。だから魔物から逃げる方法を心得てるけど、スライムは腹が減っている時はしつこいから厄介なんです。」

「慣れているな。」

「庭みたいなものです。」


「じゃあ・・・迷ったりしないよね?」





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