拝啓、明日ノ私〜才能で選別される狂気のデスゲーム〜
廃れ
第一章・導入、オープニングゲーム『あべこべ』
第1話:あなたの人生は退屈ですか?
私は、バグになりたいのかもしれない――――。突然ですが、アナタは歯車を『異常』だと思ったことはありませんか?私はあります。だって、あれはあまりにも『正確』すぎるからです。システムとして回り続け、当たり前の『日常』に関与している。これは機械だけではなく、人間もそうだと思うんです。世界中どこにでもある、日常のように回る歯車……これって、不気味じゃありませんか?私には、それがむしろ『異様』に映るのです。だって、もし歯車が1箇所でも『バグ』が出ると修復するのは難しいです。それでも、歯車は当たり前のように回り続ける……奇跡だと思いませんか?それとも……『バグ』が発生した『歯車』は知らないうちに『新品』に交換されたのでしょうか?では、不要となった『部品』は……どうなるのでしょうか……?消えて終わりだけだったら、つまらないと思いませんか?その『バグ』が、世界を変える起因になったかもしれないのに。……と、話が長くなってしまいました。私、思ったことを何でも口にしてしまうんです。悪い癖ですよね。
さて、私の人生は……平凡で、退屈で、普通です。私の人生は……全て絶妙に噛み合って、回り続けて、世界の一部となる歯車です。私の人生は……そんな歯車に流され続け、生きる意味を探す旅です。抗うことは世界が許してくれません。私の存在理由を、生きる理由を、探しています。誰か、教えてくれませんか――――。
「みう、また明日ね〜。あ、そうだ!明日クラウンテストの選抜通った子がスピーチするって!ま、うちらとは無縁だけどね〜」
気さくな友人の声が、私の耳へと届く。
「うん、また明日ね」
私はありきたりな返事を返し、左手を上げ、そのままやじろべえのように手を左右に振り行ったり来たりさせる。
友達が私から目線を切り、歩み進めるのを目処に、左手を下ろし、私の部屋があるアパートまで足を進める。
帰りはいつも、ポストを確認する。理由は特にないけれど、それが日課になっている。中を確認すると、私は一瞬手が止まった。ポストの中にあったのは、漆黒の封筒。明らかに異質で、不穏で……それなのに、どうしてだろう。こんな不気味な封筒に……私は、少しだけ期待してしまった。
「手紙……?」
手紙など、普段は届かない。だからこそ、嬉しかった。誰かは分からないけど、私を『見て』私『に』手紙を送った。才能至上主義のこの世界で、『無能』の私が、世界に興味を持ってもらえたような気がした。手紙を持ち、いつもより駆け足でアパートの階段を上がる。鍵を開け、軽く手を洗いながら、ポットでお湯を沸かす。戸棚からコップを取り出し、コーヒーの準備をする。本当はコーヒーとチョコレートを確保して、ゆっくりと椅子に座り手紙を読むつもりだったけど、ワクワクが抑えきれなかった。ポットはまだ沸騰中だったけれど、手紙を開く。
『拝啓 三浦みう様
初めまして。私は、才能ある者を管理する組織「クラウン」に所属する者だ。正確には、『裏クラウン』と呼ばれる部門の者である。その詳細は、貴殿に明かす必要はない。分かってはいると思うが、君は才能があると認められ「適合者」に選ばれたわけではない。では、何故クラウンから手紙が来たのか。理由は1つ。このたび、関東地域において適合者の選定テストを実施することとなった。
つきましては、非適合者の皆様におかれましても安全確保を目的とした移送措置を講じる。知っているとは思うが、適合者の技能テストは毎回激しい損傷が出てしまう。だから、君たちには安全確保のための特別な船旅のご案内させてもらおうというわけさ。適合者の技能テストが終了するまで、豪華客船で船の旅をゆっくりと満喫していただく。その後は、クラウンが管理している「クラウン島」で自由気ままな生活を送ってもらう。適合者の技能テストが終了したら、責任を持って君の自宅まで送らせてもらう。
決行日は明日、場所は○○フェリー場。集合時間は問わない。以上だ。』
全てを読み終わった頃には、ポットはとっくに沸騰を終え、けれど、私の中では『何か』が始まった感覚が、確かにあった。静かな時が流れていた。それだけ夢中で手紙を読んでいたのだろう。手紙の内容について、色々と言いたいことや気になることはあるけれど……でも今はこれしか出てこない。
「え、明日!?ちょ、いや、え?……無理だよー!?」
あわあわ、と同じ場所を行ったり来たりする。
「いくらクラウンがこの世界を握っていたとしても、関東地方民を全員集合なんて無理じゃない!?絶対無理だよ!!え、ドッキリ?……いやいや、さすがに仕掛けが本格的すぎるでしょ……?」
……あれ?でも、なんでわざわざ私にドッキリを仕掛ける必要があるんだろう?これって……もしかして本当なの!?
「……いずれにしても、行くしか選択肢はないか……本当に関東地方で適合者テストなんてやられたら、普通に巻き込まれて終わる……」
コーヒーを用意していたマグカップを、ラップをして棚に置く。そして、新しいマグカップを出して今度はホットレモンを用意する。
「睡眠不足になったら困るもんね……。今日はカフェイン抜いとこう」
しかし……才能至上主義のクラウンが、不適合者にこんな優遇するかなぁ……?そりゃ、確かに不適合者は労働には使えるかもしれないけど……あんなとこのトップなんてイカれた思想してると思うんだよね……偏見だけど。
「そういえば、裏クラウンって書いてた。クラウンにも表と裏がある……?表は私達不適合者に見せる顔で、裏は冷酷な人の集まりだったり……?」
うーーーーん。と、しょうもないことを珍しく考えてしまった。例え適合者だったとしても、私の世界は変わらないのに。
「友達にも手紙が来ているか連絡してみてもいいけど、面倒だしいいや。とりあえず明日フェリー場に行ってみよう」
ホットレモンを飲み終わり、旅行を楽しむかのように必需品をリュックへと入れていく。ちょっと楽しみにしている私がいた。
――――――当日、フェリー場前。
手紙には時間指定がなかったため、私は深夜にフェリー場を訪れた。まだ殆ど人がいないけど、数名はいることから私と同じ手紙を読んだのだろう。やっぱり本当だったんだ……だって、手紙の内容が事実だと決めつけるかのように……。
「うわぁ。すごい船の数」
フェリー場自体も広い場所だったが、そこには船が幾つも海の上に浮かんでいる。すごく大きい同じ船が何船もある。
「すごい人数が乗れそうだけど、これだけの船じゃ流石に関東市民全員は乗れなくない……?」
クラウン側が、居住地ごとにフェリー場を振り分けているのかもしれない。いや、にしては数が合わない気がするけど……。ここまで本気なものなの……?違和感がある。今回は適合者の技能テストをするから、不適合者は避難……不適合者全員が……不適合者……この世界に必要ない存在……が1つに集められている。まさか、これ……。
「不適合者の選定……?」
思わず呟いた言葉が、夜風に溶けていく。いや、まさかね。考えすぎだよね。何事も疑いから入るのは良くない癖だ。とりあえず、人が少ないうちに受付を済ませよう。フェリー場にスーツを着て仁王立ちしている、いかにもスタッフみたいな人に声をかける。
「あの、すみません。この手紙を貰いました。受付をお願いします。」
「ありがとうございます。手紙を確認させていただきます……三浦みう様ですね、確認が取れました。どうぞ、案内いたします。」
スタッフの人に手引きされ、船内に入る。船内は外見の見た目通りで、すごく広くて綺麗な豪華客船だった。もう、島なんて行かなくてもこの船だけで十分満喫できちゃいそう。
「この扉に入って、中でお待ちください。三浦様は到着が早かったため、少々お待ちいただくことになると思いますが……ご了承ください。」
「あ……分かりました。早く来たのは私ですから、全然大丈夫です」
扉を開け、歩みを進める。中はまだ誰もおらず、私が一番乗りらしい。しかし、壇上の背景には【オープニングゲーム会場C】と書かれた看板が立てかけられている。
「不穏だなぁ。みんなでトランプとかならいいなぁ。」
私は、常に最高より最低を見つめる女だ。最低を基準にしておけば、期待なんてしなくていいからだ。その分、少しでも最低を上回れば私は楽しめる。
「まぁ、人数が揃うまで散策でもしようかなぁ」
その後、私は一通り散策を終え隅っこの壁に凭れて座っていた。気付けば、人数は多くなっている。まだ誰とも会話してないけど……。
「あ〜テステス……マイクテスト中やで〜」
天の声が聞こえる。『クラウン側』の人間だと、反射的に脳が捉えた。まぁ、スタッフさんの指示もあったし無断でこんなマイクテストをする参加者はいないから……。
「あ〜?おっけ?聞こえてんな〜よし、じゃあ人数も揃ったし始めよか」
会場全体が暗闇に包まれる。次に壇上だけスポットライトが当たる。そこには、『鬼』の仮面を被った『何者』かが、場を支配していた。
「うお!演出すげー!」「ヒューヒュー!いいぞー!」
パーティ気分の参加者は、歓声をあげる。
「早速の持ち上げサンキューな〜!それじゃ、俺の後ろにも書いてる、オープニングゲーム……始めよか。『選ばれなかった者』同士の、最初で最後の、遊戯……いや『処刑』をな」
次第に、異様な静けさが広がった。仮面の奥の素顔は見えない。けれど、どうしてだろう……あの『鬼』笑ってる気がした。
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🗂 本作の第1話はこちら →
▶️ 『第1話:あなたの人生は退屈ですか?』
👉 https://kakuyomu.jp/works/16818622175556728824/episodes/16818622175556818244
💀「才能」が全てを支配する世界。
狂気と才能が交錯する心理×頭脳のデスゲーム、開幕。
▶️ 次回、第2話:不適合者と適合者はこちら
👉 https://kakuyomu.jp/works/16818622175556728824/episodes/16818622175557481469
「ウツクシイモノが、もっと見たくなってしまったんです。」
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