第12話

 俺は右手にボタンを持っていた。


「……押すか」


 あのクソ女神の用意したものなど使いたくはないが、早いこと復活してラスティーナを安心させてやりたいし、女神をシバく為にも現世へ戻らなくては。


「ポチッとな」


 そう言いながらボタンを押すと、いつぞやの様に俺の足元に光り輝く魔法陣が出現し――


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


――目を開く。

 暗い。

 少しづつ暗闇に目が慣れてきて、辺りを見回すと、どうやら俺は箱の中に居るらしいことがわかった。


 死者を入れる箱の中に。


 うん。

 復活した場所は、棺桶の中でした。


「……するんですか!」


「いや、だってほんとにステータスオール1だと思わないじゃんか! 俺、冗談だと思ったんだよ……」


「だからって、あんな……あそこまでやらなくてもよかったじゃないですか!」


 外から小さくそんな声が聞こえてきた。


 ラスティーナと誰かが言い争っている、というかラスティーナが誰かを口撃しているようだ。


「治癒院まで俺が責任を持って連れて行くから許してくれ……」


「貴方の体格じゃ目立ち過ぎます! 考えて物を言ってください!」


「……出してー」


「あそこで私達オークが人間に見つかれば、まず間違いなく大騒ぎになります!」


「……出してくれー」


「それ……で……」


「ラスティーナー」


「……え?」


 どうやら気がついたようだ。

 誰かが近づいて来る音がする。


「……し、シュンさん?」


「うん」


 そのやり取りの直後、棺桶の蓋が開かれた。


「……なんと」


「ひっ!」


 目の前にはラスティーナと、長オーク。


 ま、また殺される!

 冗談じゃない!

 あの紙に書いてあった事が本当なら、復活は一日一度までなんだ!


「お、俺はこのとおり無害なミジンコ野郎ですあなた達に何をするつもりもありませんだからどうか見逃してくださいお願いします何でもしますからどうかどうか見逃して下さい!」


「……」


 冷や汗を流しながらそうまくし立てる俺をしばらく見つめた後、ラスティーナは長を睨みつけた。


「……えと、ごめんね?」


 オークの長は俺に本当に申し訳なさげにそう言った。

 な、なんかさっきと随分態度が違うな……

 怖い……


「……とりあえず、話をしよっか」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 俺は棺桶から丁重に取り出され、ラスティーナに支えられながら座る。


 周りにいた筈のオーク達は居なくなっており、今、この空間に居るのは俺とラスティーナ、そして長だけだ。


「……まずは謝罪からさせて頂こう。申し訳なかった、鈴木様。」


 そう言い、長オークは俺に土下座をした。


 女神のクソみてえな土下座と違い、しっかりと誠意が篭っているのが、もう斧を背負っていない背中から伝わってきた。


 俺を殺してしまったことへの謝罪だろう。


 いや、何でだよ?

 いくらなんでも不自然過ぎるだろ……


 俺は少し警戒を解き、首を傾げた。

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