九尾の狐(仮)

詩水りん夏

第1話

1.九尾の狐という者



「史帆さん、父が呼んでいます」


「わかった」


ついにあと1人というところまできたか。


「入るぞ」


「史帆さん、待っていましたよ」


「随分と弱っているな」


「貴方に渡すためにどうにか生き延びましたよ」


「…あぁ、太一お前で最後なんだ」


「最後に貴方の役に立てるみたいで本当によかった…」



「頂いていくぞ、安らかに眠れ」



「父上!!!!!」

バンっっっっ



「貴様!何者だ!!父上に何をしている!!!」


「お前は次男坊の…?待て!離せ!今はそんなことしている時間はないんだ!!」


これで終わるんだ!こいつから貰ったら私はやっと…!!!!!


「何をしているんだ響太!!!」


「兄さん!!この者が父上に…!!!」


「史帆さんを離せ!!今はそんなことしている時間なんて_______」





「お前ら静かにしろ、太一が逝ってしまった」


まだ続くのか。

私は…いつまで…こんな…。


「っ父上…」


「そんな……史帆さん、その、まだ…?」


「あぁまだだった」



「兄さん!!この者は何者なのですか!!この者せいで父上が逝ってしまったのでははないのですか?!」


「響太、お前に話すことなどない。史帆さん、私の愚弟が本当に申し訳ない」


「頭をあげてくれ。こいつは私のことを知らなかったのだ。仕方のないことさ。」



「それにこんな場面を見られてしまったんだ。私のことを話してやれ。少々疲れたので私は帰る。」


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一体何だったのだ。

父上が危篤だと知り、急いで帰ってきたら知らない女がいた。

あれは確かに父上の胸元、心臓に手を向けていた。あの女が父上に何かしたのではないのか?!



「彼女は折工史帆さん、折工織物の創業者で本当の社長だ」


「え…?」

どういうことだ?創業者??そんな、そんなこと有り得ない。あの人は俺よりも若かっただろう…??それに本当の社長だなんて…。



「史帆さんは九尾の狐なんだ、俺たちよりも遥かに長く生きている」

「九尾の狐だと世間に知れてしまうと史帆さんの身が危ない」

「だから矢本家が表の社長として代々継いできたのだ」

「お前は知らなかったのに、さっきは強く言ってしまってすまなかったな」


「そ、そんなこと信じられません!そんな…九尾の狐など!!本の中の話でしょう!!」


「私も父上から会社を継ぐときに聞かされたが到底信じられるわけがなかった。」


「それならば何故…」



「見たのだ、この目で」

「九尾の狐の姿を」


「…!!」


「見てしまった以上信じるしかないだろう?」



「この話はここまでだ。父上を母上が眠る場所へお連れせねばならない」

「それにお前も頭を冷やす時間が必要だろう」


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本当に九尾の狐がこの世に存在するのか。しかし兄さんが噓をついているとも考えられない。

それに気になるのが、あの時父上の心臓に手を向けていたこと。思い出してみると、なんだか儀式めいていたような…。


くそっ…1人で考えていたって埒が明かない。


「兄さん!!!彼女の場所を教えてくれ!!!!!!」


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はぁ。人間になり損ねた。


900年だぞ。900年間、私は…。


ここまでくると誤差のような気もするがずっとこの日を待ちわびてきたのだ。期待してきたのだ。がっかりしたってよかろう。


しかし人間を看取るのは何度やっても慣れないな。矢本の人間たちは生まれた時から知っているからか、やはり、すこし、悲しい。






「くそっ!こんなに人間らしいのに何故人間になれないのだ!!!!!」

「うわっ」




「…なんだ次男坊か、何か用か」


「いや、えっと…先ほどはすまなかった」

「動揺していたとはいえ、女性の胸倉を掴んでしまった」


「そんなことか」

「気にするな、私は九尾の狐だからなそんな柔じゃない」


「っ!」


「奏太から聞いたのだろう?何をそんなに驚いているのだ」


「その、貴方は、本当に、九尾の狐なのか…?」


「あぁ、私は九尾の狐だ」

「信じられないのだろう?仕方のないことさ」


「いや、貴方は本当に九尾の狐なのだろうな…」

「俄かには信じられなかったが、貴方から直接聞いて分かった」

「私は警察官だ」

「噓をついているかついていないかの区別くらいつくさ」


「ほう、次男坊のくせに肝が据わっているじゃないか」


「そんなことない、先程散々騒ぎ飛ばしてしまったよ」


「それで、さっき、聞いてしまったのだが…」

「人間になれないとはどういうことなんだ…?」


「あ~、なんだ、その」

「そこは奏太から聞かなかったのか」



「九尾の狐は1000人分の人間の生気を集めると人間になれるんだ」


「…は?」


「その反応が正解だ」

「私も本当にそれで人間になれるのか正直分からない」

「だがもう知り合いの九尾の狐もいないからな、やってみるしかないんだ」


「人間の生気…?そんなものどうやって集め…」

「まさかさっき父上の…!!!」


「そうだ」

「太一から生気を貰おうとしていたところにお前が来た」

「私は代々、矢本の一族から生気を貰っている」

「矢本の者が危篤になると私が生気を貰う、そういう契約になっているのだ」


「そうなのか…」

「その、今は何個集まっているんだ?」


「999個」


「あと1つじゃないか!」


「そうだ、あと1つなんだよ……」


「…?あ、もしかして、俺があの時貴方の邪魔をしなければ…??」


「っそうだ!!!お前が来なければ私は…!!!!!!」

「いや!!!!邪魔とは言はないさ!!!君の父親なんだ!!」

「父親の最期はしっかり見届けるべきだ!!!」


「ほ、本当に思っているのか?すごい顔になっているぞ」


「すごい顔にもなるさ!!!!」

「900年間集めてきてやっと今日人間になれるんだと……!!!!!」


「900年?!」


「っすまない、君に八つ当たりしてしまった」


「あ、いや、こちらこそ、すまなかった…」





「と、とにかく、君が気にする必要なんてない」

「長いこと生きて来たんだ、これくらい誤差だ」


「あなたがそう言うなら…わかった」

「いきなり押しかける形になってすまなかった」

「それじゃあ俺はそろそろ…「史帆さん!響太!!」


「奏太?」「兄さん?」



「よかった、まだここにいたのか…」


「どうしたんだ兄さん?そんな急いで」


「史帆さん、響太」

「よく聞いてくれ」





「父上は殺されたのかもしれない」


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九尾の狐(仮) 詩水りん夏 @oresamadaga

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