第6話 約束

(AKITO)



二十歳の誕生日




兄貴が缶ビールを持って俺の部屋に入ってきて

人生初めての酒は、苦くて不味くて



でも兄貴は、

今日の缶ビールが人生で一番美味いって笑ってて。






多分兄貴はそんなに酒が強くなくて

一緒に顔を赤くしながら



「今日から真っ向勝負だ」って



弟の俺を、大人として認めてくれた。




俺も兄貴に負けじとビールを飲んで

ひーちゃんの好きなところをいっぱい話して

兄貴は嬉しそうに相槌を打って


少し寂しそうに笑ってた兄貴は

ひーちゃんの気持ちが自分に向いてるって気づいてるんだと思ってたけど




「秋音」




幼馴染とか、兄弟とか

何かの始まりと終わりの狭間で兄貴と交わした




「瞳のこと幸せにしような、絶対」




守らなきゃいけない、兄貴との約束。



どちらかが、って意味だったのかもしれないし

もしそうなっても

3人は変わらないままでいてやろうなって意味だったんだと思うし。



きっとひーちゃんは

兄貴に幸せにしてもらいたかったと思うけど


大人になった俺が彼女に薔薇の花束を渡したら




5年前の今日よりも、涙を流して。











きっと彼女は今、

言いたいことがたくさんある。





兄貴の想いを受け止めて来なかったことへの後悔とか

大好きな幼馴染を失ってしまった哀しみとか

幼馴染でいたかった甘えへの憎しみとか





俺を呼び捨てにした夜に、全部を捨てて孤独を選ぼうとしたこととか。











「瞳?」

「、、、」

「ひとみ、」



花束を持ったまま優しく抱きしめて、



「ずっと好きだったよ瞳」



幼馴染を捨てた俺に



「私も、ずっと、」





ぐしゃぐしゃになった瞳を拭ってあげてもその涙は止まらなくて





「秋音、」

「うん」

「あきと、」

「うん」






涙色に染まってしまいそうな花束を受け取ってくれた君は

太陽みたいに笑った。

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