第2話 初恋


俺より4つ年上の兄は

頭が良くてスポーツができて、



顔も良くて、性格も良くて




だけど、

本当は心の奥底に何かを隠してるんじゃないかって思う時もあって



でも俺は、そんな兄のことが大好きだった。









「あき、部活どうすんの?」


来年から中学生になる頃のある日、

夕飯に大きな唐揚げを頬張りながら



「バスケやる」

「野球は?」

「坊主にしなきゃいけないからやだ」

「今時そんな決まりねぇよ。笑」



細いくせによく食べる兄を追いかけて、

俺も負けじとおかわりして。










無理して食おうとする俺に麦茶を注いでくれてた兄は

デザートもあるから食いすぎんな、って。



「デザート?」

「うん。後でひーちゃんが持ってくるって」

「ひーちゃん来るの?お夕飯食べるかしら」

「んーん、食べてから来るって。

 珈琲用意して待ってろってさ」



ひーちゃんは、俺たちと幼馴染の女の子で

歳は兄貴と同じ、俺の4つ上。


高校生になってからひーちゃんは昔よりずっと大人っぽくなって

思春期突入中の俺は、最近うまく喋れない。





夕飯を食べ終わってすぐ、

両親と兄にばれないように洗面所に行って

さっきソファに寝転んで漫画を読んでた時に崩れてしまった髪の毛を誤魔化し程度に整える。






ひーちゃんの到着を知らせるインターホンに胸が跳ねて、

俺より先に、兄が玄関に迎えに行く。





「お疲れ瞳、まだ雨降ってる?」

「お疲れ湊音。ううん、もう止んでる。 

 あ、あきちゃんこんばんは~!」





兄は湊音(みなと)で、

弟の俺は秋音(あきと)。



幼馴染の彼女は兄のことを「みなと」って呼んで

俺のことを「あきちゃん」って呼ぶ。





彼女の名前は瞳で、

俺も兄貴も「ひーちゃん」って呼んでたはずなのに




いつの間にか兄貴と彼女は、

大人みたいに呼び捨てし合ってて。




「あきちゃんは部活どうするの?

 やっぱ野球部?」

「その話さっき終わった」

「あらやだ、この子反抗期?」

「バスケ部だよな、あき」

「お~いいね~。

 伸長伸びでモテちゃったりして」



週末の夜にひーちゃんが遊びに来ることはしょっちゅうで


今日はお土産に持ってきてくれたプリンを食べながら

俺だけ麦茶で、二人はアイスコーヒーを飲んでる。




「あきちゃん、」

「ん?」

「バスケ、レギュラーになったら教えてね。

 試合観に行きたいから」




はじめて試合に出られることになった時はなんか恥ずかしくて

ひーちゃんに報告した覚えはないんだけど


両親と、兄貴と、その横に腰かけてたひーちゃんは嬉しそうに笑ってて



初めてドリブルシュートを決めた俺に

ミサンガをプレゼントしてくれた。





みんなで少しずつ大人になって、

俺が3ポイントシュートを決められるようになった頃


兄貴とひーちゃんは、高校を卒業する。





「兄貴」

「ん?」

「卒業式の日ってひーちゃんに会う?」

「約束はしてないけど、

 まぁ会うんじゃないかな」

「俺も会える?」




俺がひーちゃんのことが好きなんてことはバレバレで

何かしらで祝いたいって魂胆も、もちろん。




「花とか喜ぶんじゃん?」

「花?」

「そ。お前も男なら人生初の花束はちゃんと

 大切な人にあげろ」





じゃあ兄貴は誰にあげたんだよ、

って聞いてみたかったけど

なんとなくやめて。



「でもあれか、俺らが初めてあげた花は

 かぁさんへのカーネーションか」

「結婚記念日のお祝いはケーキだったもんね」



我ながら仲の良い家族だなって勝手にむず痒くなりながら

兄貴のパソコンで一緒に花屋のホームページをのぞき込んで



「ひーちゃんって何色っぽいかな?」

「瞳はぁ、、、青とか水色とか、

 寒色っぽいのが好きな気がするけど」

「でもなんか、

 もっと明るい色のほうが良くない?」

「あきがあげたいと思う色で選べばいいよ。

 さすがに薔薇とかは引かれるかもだけど」



薔薇はプロポーズの時にとっとけ、

なんて笑われて




兄貴と一緒に選んだ子供っぽい花束を渡しに

兄貴が帰ってくる前に彼女の家の前まで行ってみたら





兄貴はすでにそこにいて



彼女に何か差し出して



それは多分、第二ボタンだった。

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