第28話 無自覚人たらし
☆☆☆
「渉くん、こっちおいで?ほら、なぐさめたげる。」
「渉くん、僕の方がいいでしょ?一緒にいいことしよ?」
先輩2人が、ぐいぐいと近づいてくる。逃げるが、壁に追い詰められてしまった。
「えちょ、やめやめやめ...!」
俺の静止もむなしく、2人は俺に迫り―
☆☆☆
「...ひどい夢だった...。」
布団から起き上がった俺は、見た夢を忘れようと、頭をフルフルと震わせる。
「絶対実先輩のせいだな...くそぉ。あとで文句言ってやろ。」
下に降りて、洗面台で顔を洗う。鏡を見ると、なぜか俺の顔はニヤついていた。なんだこいつ、ふざけた顔だな...じゃなくて。
つまりこれは、俺は無意識に、先輩たちに迫られることを喜んでいるってことか?
「...いやいやいや、そんなわけないだろ。頭お花畑かっての。」
俺は鏡の中の自分自身に中指を立て、身支度をして家を出るのだった。
☆☆☆
学校について正門をくぐると、ふいに背中側が重くなった。倒れそうになったが、なんとかバランスをとって、事なきをえる。
俺は安堵しつつ、勝手に乗ってきたお馬鹿さんに向けて、苦言を呈する。
「咲月先輩。危ないですから、急に乗ってくるのやめてくださいよ。倒れからどうするんですか、先輩もケガしますよ?」
「君なら大丈夫だろうと思ってね。ありていに言えば、君を信じてるからこその無茶さ。」
「無茶ってわかってるなら尚更です...はあ」
俺はしずかにため息をつく。
「ごめんて。でも、なんで私って気づいたの?今、一回もこっち見てなかったよね?」
「だってこんなことするの咲月先輩くらいですし」
「え、君友達いない系?」
「いますよ友達は!勝手に乗っかってくる友達がいないってだけです!」
「ああ、うん。そうかそうか。」
「ほんとですってば!」
「わかったわかった。つまり、君の勘が当たったってわけか。」
先輩は一人で納得したにそういう。
「勘?いや、割と確信をもって言いましたけど。」
「...やっぱ友達いないんじゃ」
「いるっての!」
「いやいや、友達だって普段はやらなくても、突然乗っかってくる可能性はあるだろ?」
「限りなくゼロに近いですけどね」
「だまらっしゃい。それなのに確信してたってのは?」
「あー」
先輩が何をそんなに不思議がっているのかわからないけど、俺はその理由を告げる。
「匂いっすね。先輩、最近駅前のいい香水に変えたでしょ?俺その匂い好きなんで、その匂いがしたから先輩だってわかったんですよ。知り合いで使ってるの、先輩だけだし。」
すると、先輩はするりと俺から降りた。先輩のほうを見ると、目を丸くして俺のほうを見ている。
「...咲月先輩?」
名前を呼ぶと、途端に顔を赤くして走り去ってしまった。な、なんだったんだ一体...?
☆☆☆
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます