異世界転移したけど最弱体質で詰んだ俺が、世界最強になって無双するまで  ~気づけば俺、美女に囲まれて英雄やってました~

朝食ダンゴ

第1章

第1話 美少女女神と異世界転移!

「ようこそ。創世の宮へ」


 透き通った声。幼くもどこか厳かな響きは、人の声とは思えないほど耳心地がよい。

 簡素な純白のワンピースを纏い、短い髪を吹きもしない風に靡かせる少女。


 大きな双眸は愛らしく、小さな鼻はつんと高く、整った唇は品よく結ばれている。背景に溶けるような灰色の髪は、少女に無機質な存在感を添えていた。

 浮世離れした雰囲気の美少女。絶世の、とはまさにこのことだろう。


「……え?」


 方や、伊勢カイトは呆けていた。


「ここ、どこ?」


 見渡す限りの白い灰。遠く地平線の彼方まで灰以外の全てがなく、けれど濁っているわけでもない純粋な一色。

 反して、空は異様なほどに鮮やかだった。子どもが好き勝手に絵の具を塗りたくったような色とりどりのビビッドカラーが躍っている。

 まともな世界でないことは一目瞭然だ。


「もしかして、天国?」


 けたたましいクラクションと、ヘッドライトの閃きが脳裏を過る。

 目の前に迫る大型トラックの無機質な顔面。

 生前のカイトが見た最期の光景だった。


「死んだのか。俺」


 冷静さを欠いたまま、ようやく自分の体を確認する。トラックに轢かれてバラバラになったはずの体は元通りになっていて、高校指定の学生服を着たままだ。


「キミは……えっと、女神ってやつなのか? それとも、天使?」


 少女の瞳は底の見えない深い闇色だ。身長差のせいで上目遣いになっているせいで余計にそう感じる。華奢な体型のわりにその美貌はどこまでも女性的であり、顔の造りは幼く、けれど表情は大人びていて、そのギャップがカイトをくらくらさせた。


「カイト」


 名を呼ばれ、カイトは思わず居住まいを正す。


「あなたが生きた世界は、どんなところだった?」

「……つまらない場所だったよ」


 高校生活は退屈で、教師は疎ましく、同級生達は遊びや恋愛に現を抜かす馬鹿ばかり。世間には不快な情報や嘘ばかりが飛び交って、社会の汚さを露呈している。

 一心に打ち込める趣味も見つからない。娯楽には困らなかったが、時折虚しく感じることもある。漠然とした将来の不安は、まるで他人事だ。

 繰り返しの日々。生きるだけの毎日。


「だから、未練はないかな」

「そう」


 まるで興味がなさそうな相槌だった。


「本当に未練はない? あなたの世界に、大切なものは残ってない?」

「……ないよ。もう、なくなった」


 思い浮かんだのは家族の姿。口うるさい両親。小生意気な妹。


「わかった」


 少女はよく見ていなければわからないくらいに小さく頷く。


「カイト。あなたは特別。新しい人生を生きてほしい」

「それ、生まれ変わるってことか?」

「受け取り方はあなた次第」


 カイトは生前に触れたファンタジー作品を思い出す。

 交通事故で亡くなった主人公が、異世界で痛快な冒険譚を紡ぐ物語。

 彼の平凡な生活に彩りをくれる少ない娯楽の一つだった。


「あなたが望む世界を、思い描いて」

「望んだ世界に転生できるのか?」


 カイトの顔に初めて笑みが生まれた。


「異世界と言えば、やっぱ剣と魔法のファンタジーだよな。はは」


 剣を握り、派手な魔法を操って、自由自在に怒涛の戦いを駆け抜ける。

 痛快な勝利。浴びるほどの称賛と、向けられる憧憬。

 そんな人生を送れるとしたら、どんなに幸せなことだろうか。


「これが死ぬ間際に見てる夢だとしても……まぁ、悪くはないかな」


 変哲のない人生は終わった。

 異世界への希望を抱いて消えるのもまた一興か。


「異世界に行くならチートがほしいな。俺だけチートで世界最強ってやつ? 憧れてたんだよな、そういうの」


 ひとりごちるカイトに、少女は首を傾げた。


「チートってなに?」

「え? あー……なんていうか」


 少女はじっとカイトを見つめる。吸い込まれてしまいそうな闇色の瞳。一切遠慮のない美貌。


「神様から貰える能力というか、ギフトというか。ほら、あるだろ? そういうの」

「そんなものはない」


 後頭部を殴られたような鈍い衝撃と共に、カイトの視界は黒に染まった。

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