偽哀

屑負

第1話 裏切り

「ごめんね。寂しかったの。」

その言葉は僕を責めている気にさせた。


僕は大学3年生の時から付き合っていた彼女がいた。彼女は愛想がよく、人に好かれる小柄な可愛い女の子だった。それ故に、他の男が寄ってくることも多々あった。苦労することも多かったが、それでも彼女のことは好きだったし、彼女からの好意もしっかりと感じていた。


大学を卒業後、彼女は県外の就職が決定していた。卒業前から離れ離れになることはわかっていたが、彼女が必ず帰ってくると言ってくれたから僕はその言葉を信じ彼女の地元に就職した。

この日から遠距離生活が始まった。

毎日電話もして、2人で頑張ろう!!と誓い慣れない仕事に苦戦しながらも日々を過ごしていた。しかし、寂しいと言う気持ちは電話で言葉にせずとも感じており、少しずつだが寂しさが大きくなっていくのを感じていた。

そんなある日、彼女から「仲のいい人ができた!」と聞いた。話を聞くと相手は男性であった。この時から自分の中に不信感が生まれたが、彼女に伝わらないようにしていた。話を聞くと「可愛い。ご飯行きたい。」としつこく誘われていると言っていた。僕は「出会って仲良くなるのはいいけどそんなに長い付き合いでもないのにそんなこと言う奴は体目的だろ。」と彼女に伝えた。しかし彼女は

「彼氏いるって言ってるしそんなことにならないから大丈夫だよ!」

とこちらの不安を理解してないような返事であった。納得できない自分がいたが

「わかった。そう言うなら信じる。」

と自分に言い聞かせるように話を終えた。この時から少しずつ自分の中で遠距離に対する不満が顕著に現れ始めた。毎日電話をしていても無言が続く、お互い口を開けば「疲れた。」の繰り返し。そして遠距離での交際による我慢の限界から「何で隣にいないの。」と言う言葉が彼女の口から出た。僕は謝るしかできなかった。ただひたすらに言葉でしか彼女を繋ぎ止めることしかできなかった。


ある日彼女から

「この前言ってた人と今日の夜飲みに行く!」

と連絡があった。「2人で?」と僕は嫉妬を隠しきれずに聞いた。

「同期と3人で行くよ!だから大丈夫!」

と彼女が言った。以前の話を聞いていたため、素直に了承できなかったが久しぶりに彼女が羽を伸ばせるならと「行っておいで」と伝えた。彼女も心配させないように

「ちゃんと連絡はするからね!」

と僕を気遣ってくれていた。一抹の不安が残るが僕は彼女を信じて仕事の準備をしていた。ベッドに入り寝ようとした時彼女から電話があった。電話の彼女はすでに泥酔していた。電話に出ると

「今酔ってるー。でも、好きって伝えたかったから電話した。」

と彼女が甘えた声で言ってきた。

「ほどほどにしときなよー。」と僕は少し照れて伝えた。しかしこの後の発言に僕は凍りついた。

「この後宅飲みになったから行って来るねー。」と彼女は言った。

僕は「は?なんで?帰るって言ってたじゃん。せめて宅飲みはやめて。相手は男だよ?」

と困惑していた。

「帰るのにお金かかるし、家近いから朝一のバスで帰る方が安いもん。何もないからいいでしょ?」と一切の警戒心もなく彼女は話していた。僕は言ってほしくないと思いながらも止められない自分に腹を立てながら「絶対連絡して。それならいいよ。」と許してしまった。彼女は「ありがとう。大好きだよ。」いい電話を切った。この言葉を素直に受け取れないまま僕は彼女の連絡を待ちながら眠りについた。

翌朝、いつもの起きる時間より早く目が覚めてしまった。起きてすぐにスマホを見るも彼女からの連絡がない。僕は不安を抱えたまま仕事に向かった。

その日の仕事は最悪だった。ただでさえ彼女のことで上の空で仕事に身も入らない上に、職場のお局に朝から就業まで1日中叱られていた。仕事の休憩中も彼女のことで頭がいっぱいだった。しかし、一向に連絡はないままだった。いつも通り仕事を終えて帰宅し家事をしていたとき、彼女から連絡が来た。「宅飲みでそのまま寝ちゃってスマホの電源も切れてて連絡できなかった。ごめんね。」と言われた。いつもの彼女の感じと何か違うと僕は察した。この言葉を信じれずに、聞かなければよかったのに、聞いてしまった。「本当のこと言ってみて?何があったの。いつもと違うから嘘だってわかるよ。」と。すると彼女は「ごめんなさい。実はお酒飲んで勢いでやってしまったかもしれない。」と泣きながら電話してきた。

「やってしまったってどういうこと?」僕はこの言葉で目の前が真っ白になった。すると彼女は

「お酒で潰れて動けなかったら、男が私をソファーに連れていって、ふたりでそふあ2人でソファーで寝てたんだけど。朝起きたら使い終わったゴムがあったから多分やったんだと思う。抵抗もできなかったからそのまま流れで…」

僕は「なんで?」「どうして?」「何でやったの?」「信じてたのに。」「ふざけんな、こっちのことも考えずに。」いろいろな言葉が浮かんでいたがすぐには口にできなかった。そんな中彼女の口から「本当にごめんなさい。寂しかったの。」と僕の怒りより前に彼女の寂しさが露わになった。その言葉を聞き僕の口から出た言葉は「ごめんね。」だった。

ただ、怒りも、悲しみも浮気されたことでさえも、自分の責任のように感じる彼女の言葉に謝ることしかできなかった。

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