第2話

何度かこれまでにも、何かのついででこの話をしたことがある。

たいていは、ふーん、で終わった。


まあ、たいした話ではない。

珍しいことではあるけれど、取りてて、まったくありえないというわけではない。


ある日、ロケットが爆発して何人か死にましたとさ、オシマイ。


それにこの年は忙しい年だったのだ。

春にはチェルノブイリ原発事故があったし、冬には三原山が大噴火していた。


1月に起こったことなんて、その年の年末にはもう誰も覚えていなかったのだ。


その中でたった一人だけ、同じ時間、同じテレビを見ていた、という人に僕は出会った。


彼女の名前はムツキと言った。

僕が漢字を思い浮かべられないでいると、大学ノートの端に、睦月、と書いてくれた。


そのとき、僕はまだ社会学部に入学したてで、ムツキは文学部の3年生だった。


どんな場面で僕はこの話をすることになったんだろう。

きっとなんとなく行ったサークルの新歓やら体験入部だっただろうと思う。


そうでなければ、まだ友達もいない大学で女の人と話をする機会なんてなかった。


何かのきっかけでムツキと二人きりになった時、この話をしたのだと思う。


「それ、わたしも見てた」とムツキは言った後、「それで、君はそのあとどうしたの?」と聞いてきた。


どう思ったのか、や、どう感じたのか、なら僕にもわかる。

でも、どうしたか?と聞かれるとなんて答えれば良いかわからない。


僕が考えていると、ムツキは話した。

「わたしはね、そのあと、一人で、したの」


僕は意味がわからなかった。


「あれよ。変に興奮したのね、きっと」

ムツキも多少は恥ずかしがっているようだったが、聞いている僕はムツキの言っている意味がわかって、もっと恥ずかしくなった。


「で、君は、したの?」とムツキは聞いた。

もちろん僕は、してませんよ、と返すと、ムツキは面白くなさそうな顔をした。


僕とムツキとの出会いは、こんな話から始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る