ダンピエラ

東雲 律

邂逅

 春の始まり、夕暮れ時。まだ肌寒くも少し温かみを帯びた風が頰を撫でる。一見、和やかな時間であったがそれは壊される。

 

「わぁぁあ!!」


 女の子の声が辺りに響き渡る。目の前にはバランスボール程度の球体に単眼、おまけに手足が伸びている灰色の異形、それが二体。

 声に反応し、細長く鋭い虹彩を彼女に向ける。

「ど、どうしよ……だ、誰か……」

 女の子は恐怖で目に涙を溜め、足を縫い付けられたかのように動けなかった。


 そこへ黒のポニーテールを揺らめかせながら、軽やかに飛び込む少女がいた。少女は両腰からレイピアを抜き、二体の異形を同時に両断する。異形は為すすべなく、体は崩れ霧散していった。


「大丈夫? 怪我はない?」

「大丈夫……」

 女の子は安堵から一粒の涙をこぼしながら答えた。

「これからはブザーも鳴らしてね、気をつけて帰るんだよ」

 少女はレイピアを鞘へ収め、女の子を見送った。



 ここはどこにでもある普通の田舎町、薄明町だ。ただ一つ、芥と呼ばれる異形が現れる点を除けばだが。

 言い伝えによれば【この世を去った者たちの負の感情が具現化したモノ】らしいが、その実際は知る由もない。

 そして芥を討つ討伐士も存在している。この少女、天羽凛あもうりんもその一人である。



 凛は討伐士の努力義務である巡回をしている最中だった。再開しようと思った直後——


「す……すごい!」


 背後から声がした。振り返ると黒髪の同年代の少年。薙刀を手にしており、彼も恐らく討伐士なのだろうと推測される。


「え……えっと……?」

「いきなりすみません! さっきの討伐、凄かったです! 俺も討伐士なんですけど、酷いくらい下手で……そ、それで、できたら俺に教えてください!」

 初対面の人に弟子入りの申し出をされ、思考停止する凛。討伐士になって十年以上は経つが、初めての出来事であった。

「いや私、弟子はとってない……っていうか、そんなことできる人間じゃ……」

「少し!! 少しだけお願いします!!」

「す……少し……なら……」

 突然のことで内心パニックになっており、彼の勢いに負けてしまった。凛の心持ちとは反対に、彼は手放しで喜んでいた。


「やったーーっ!!」

「俺、月宮伊織つきみやいおりです! よろしくお願いします!」

「あ、天羽凛です……よろしく……」

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