第10話

「着いた……」


 何事もなく、教室まで帰ることができた。

 ここ3階ではモンスターが少ないように感じる。


 モンスターは同士討ちをする。

 それはメダルが落ちていることからも明らかだ。


 3階にはぬいぐるみのモンスターがいる。あいつが他のモンスターを殴り倒しているのかもしれない。


「入るよ」


 葉月さんに確認する。

 前もって心準備をしてないと耐えられない。


「はい」


 教室の扉を開ける。

 中のクラスメイトの視線が集まる。

 やはり、この視線は好きになれない。

 食料を取ってきたのに、嫌な奴が帰ってきたという雰囲気を感じる。

 少なくとも歓迎はしてないと思う。

 これなら、葉月さんの凍てつく視線の方がマシだ。


「これが今日の夜ご飯だよ」


 バッグごと渡す。

 中から2個取り、1個を葉月さんに渡してもう1個は自分で食べる。


 席に戻る途中、「またこれかよ」という声が聞こえた。


 聞こえないフリをする。

 感情的になるのは良くない。

 次は本当にナイフで刺してしまうかも。

 カッとなった時に手元に武器があるのは良くないな。


「葉月さん、悪いけどトイレまで連れて行ってくれない?」


 遠くからそんな声が聞こえた。


 そちらを見ると、女子のグループが申し訳なさそうに葉月さんに頼んでいる。


「外は危ないですよ」


「だから葉月さんに頼んでるの」


「なぜ私なのですか?」


「葉月さんが探索係だから……」


「それなら、もう1人いますけど?」


「あの人少し怖いし……」


「なるほど……それなら、教室で済ませましょう。仕切りを作って、ペットボトルに——」


「それは嫌」


 聞こえてくる会話をBGMにして、携行食をムシャムシャ食べる。


 女子のトイレ事情は解決しそうにない。

 会話が平行線を辿っている。


 しかし、僕としては何も言えない。

 嫌われている、というか怖がられている僕が解決策を言っても、受け入れられるとは思えない。


「それと、水分も不足気味でさ……」


 女子は足りない物を口にする。

 それは、生存には不可欠な物だった。


 1番理想的な解決策はクラスメイトを連れてトイレに行くことだ。

 何人かのグループに分けて、それをトイレに連れて行って、ペットボトルとかの容器にトイレの手洗いの水を入れる。


 いや、そもそも水道が止まっている可能性もあるのか。

 それなら、どうしようか。


 考えが行き詰まった。


『ピンポンパンポーン。ダンジョンマスターより連絡でーす。職員会議で生徒のトイレやプライベート空間の配慮が必要と決まったのでミッションを発令しまーす。その内容は……モンスターを1匹倒すことだ! おっと、何クラスかは既にクリアしている! 1年3組、1年5組、2年1組、2年2組、3年2組はミッションクリアだ! 報酬として完全防音個室トイレ3セットと、手洗い場をプレゼント! 感謝しろよー!』


 何とタイミングの良いダンジョンマスターだ。

 どこからか見ていたのではないかと疑ってしまう。


『その代わり! 今日までにミッションをクリアできなかったクラスは教室の安全地帯が消滅だ! 頑張れ!』


 安全地帯の消滅……それは僕たちにも被害が出る。

 別に他人がどうなろうと僕には関係ない。

 だけど、安全地帯が消滅した場合……いや、今の時点でも他クラスへ避難をする人が現れるはずだ。


 他クラスに避難できたら自分の教室がどうなっても関係ないし、食料も貰えるかもしれない。

 ダンジョンマスターは性格が悪い。

 ミッションをクリアしたクラスを発表したのは避難を促すためか。


「うぉおお!」


「トイレだ!」


「手洗い場だ!」


「手洗い場の水飲めるよね?」


「やった!」


 教室の四隅に箱型のトイレと手洗い場が現れる。


 教室はかなり狭くなったけど、雰囲気は良くなった。

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今、この高校はダンジョンに侵食されている 真田モモンガ @N0raken

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