ふたたび目覚めた日、そして
私が最初に光を感じたとき、私は夢を見ているのだと思った。あまりにも久しぶりの明るさ。まぶしい。まぶしすぎる。私の周りには人の気配がして、がやがやとした声が聞こえていた。そして、聞こえてきた。
「保存状態、完全です。二人ともまったく腐っていません」
「DNA損傷も最小限。これは……、奇跡だ」
次に聞こえたのは、子どもの声だった。
「この人が『木原はるみ』っていうの? ほんとに百年前の人なの?」
そう、百年が経っていた。私とともかちゃんの棺は掘り起こされ、その中から現れた私たちは、驚くほど『そのまま』だった。眠るような姿で、髪も肌も残り、まるで時間が止まっていた。もちろん、私たちはもう生きてはいない。けれど、それでも私たちは「そこにいた」。かつて確かに生きていたという証が、物理として『残って』いた。
そして私たちは、ガラスのケースに納められた。「未来・歴史博物館」の特設展示室。「ふたりの愛と友情が生み出した奇跡――百年前の少女とその友人」というポスターがあちこちに貼られていた。会期は二一二五年九月七日から十月十日までだそうだ。
誰かが丁寧に私たちの髪を整え、私の制服とともかちゃんの服を整え、私が入れられたケースの中には私の好きだった花が飾られていた。そしてともかちゃんの手には、あの日の手紙が握られていた。
「このふたりは、百年前に亡くなった高校生とその親友です。ひとりは、土中で百年、もう一人は十六年を経たとは思えぬ完全な姿で発見され、今もその姿を保っています。彼女たちの物語は、孫である
案内音声が淡々と説明していく。私は心のなかで、苦笑いした。まさか、こうなるなんて。
展示室には、毎日のように見学者が来た。親子連れ、学生、研究者、メディアの人、誰もが私たちを見つめ、目を見開いていた。
「本当に生きてるみたい……」
「この子、今の高校生って言われても信じる」
「なんで腐ってないの?どうしてこんなに綺麗なの?」
「愛の力ってやつかな? そんなわけ無いか」
誰かがつぶやいた。
「忘れられなかったから、かもね」
そう忘れられなかったから。百年経っても、誰かが語り継ぎ、記録を遺し、名前を呼び続けてくれたから。ともかちゃんと私は、思い出という風の中で、朽ちることなく留まり続けたのかもしれない。
ときどき、私たちは展示室にやってきた人々の声を聞いた。ある日、ひとりの少年が、私の前に立ってつぶやいた。
「僕も、誰かを忘れたくない。忘れないように、何をしたらいいかな」
私は、思った。
「まずは、その人のことを、何度も思い出して。そして、語って。声に出して。名前を呼んで。そうすればきっと、あなたの大切な誰かも、どこかでまた、生きているから」
ともかちゃんの魂は、今も私の隣にいた。
「ねえ、はるみちゃん、展示されちゃったね」って笑っていた。
私は答える。
「恥ずかしいけど、悪くないかも。だって、まだ誰かとつながってるってことだもんね」
外は春らんまんだった。百年前と変わらず、花が咲き、風が吹いている。私たちは、眠りながら、誰かの心に生きている。それが、少しでも、未来の誰かの「さみしさ」を和らげるなら。この不思議な百年も、悪くなかったと思えるのだった。
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