第二話 配色と出会い
――ふと、いつもガヤガヤとしていたあの空間で、一心不乱に書いていた、昔の自分の絵を思い出した。
まだ、“もの“を“物“として認識できていない幼子が、感情の赴くままに書いたような究極の抽象画。
シンプルに赤と青と灰色で構成されたその絵は、単純ではあるものの、何か意味があるような配色にも思え、僕は不思議と惹きつけられた。
「えっと、朝比奈さんは、美術部とかだったっけ?」
後ろの席の女子生徒が落とした一枚の紙を拾って返しながら、僕はその子に話しかけた。
思えば、今年になってから初めて同じクラスになった彼女とは、ずっと前後の席だった。それにも関わらず、その女子生徒、朝比奈るいと話したのは、この時が初めてだった。
彼女は、一言で言えば、目立たない生徒だ。
顔立ちは美少女と言っても差し支えないとは思うが、必要以上に鬱陶しい前髪と、どこか焦点のあっていない目が、それを台無しにしている。
普通の学校であれば、お節介な女子生徒などが彼女を「発掘」して、垢抜けさせたりしたのかもしれないが、この学校では、皆自分のことで精一杯だ。
自己主張しない生徒は、基本的には無視される。
新しいクラスになってから、この2ヶ月の間、彼女が別の生徒と話しているところを見たことがなかった。
……まあ、入学以来、腐れ縁の
「……違うけど」
ひったくるように紙を奪いながら、彼女は小さい声で答えた。心なしか、声が震えている。
そんなにまずいものを拾ってしまったのだろうか?
僕としても、それ以上踏み込む気もなく、「ふーん」と間抜けな声で答えるだけだった。
数学の教師の相関係数についての解説をBGMに、僕は放課後の部活動に向けた、内職作業に戻る。
ちなみに、この学園の特性上、ほとんどの生徒は、教師の話については上の空で聞かず、各人の内職に勤しんでいる。
体育会系の生徒なんかだと、ペンの代わりに、ハンドグリッパーをもって、握力を鍛えている生徒なんかもいる。
教師もそれを理解して、カリキュラムを消化することに専念しており、叱責が起こることもない。
——10年前、私立高校だった新英総合学園は債務超過で破算した。
その時に、文部科学省配下の社団法人と、とある外資系ファンドが学校を買い取り、次世代型成果主義教育モデル校として、これまでにない学校制度を試験的に開始した。
それは、部活動の「成果」を定量化し、それを最重要視するというものだった。
導入当初は、物議を醸し出したこの制度だったが、先輩方が企業した先鋭のベンチャー企業が続々IPO(株式上場)したり、個人投資家やファンドマネジャーとして大成したり、文字通り「成果」を出してきたことで、先端教育の成功モデルとして、近年は様々な分野の有望な生徒からの希望が殺到。
そんな彼らが、また社会で成果を出すという好循環を生み出したことで、賛否の「否」の方は、近年はほとんど聞こえてこない。
(余談だが、投資したファンドは当初は他社売却によるExitを想定していたが、あまりに社会的なインパクトが大きくなりすぎて、売るに売れない状況らしい……、とは、経営コンサルタントをしている僕の叔父の談だ)
話を戻そう。故に、僕らにとっては、通常の授業は休息時間や、部活動のプランニングにあてがうことがデフォルトとなっている。
そして僕も、我が「アドバイザー部」が成長するための思案に没頭している、というわけだ。
各部活にアドバイスを行うこと自体を目的に、去年の入学と同時に自分で立ち上げた部だったが、「実績」と「信用」のないアドバイザーに、依頼がくるわけもなく、残念ながら、昨年の設立以来、まだこれといった成果を挙げられてない。
もちろん、いまだに部員は、部長の僕1人しかいない。
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