『マージャー・アンド・アクイジション! ーあなたの部活、買収しますー』

瑞木 燐

プロローグ 成果と未来


「ねえ、けいにとって、僕の『価値』ってなんだったのかな?」


 あの日、僕はたった一人の友人に対して、——何も答えられなかった


 「価値」という言葉は便利だけど、あいまいだ。


 誰かにとっての価値があるものが、別の誰かにとっては無価値だったりする。


 それは、そもそも『価値観』という言葉があるように、そもそも人によって基準が異なるからなんだろう。

 

 だから、人はそこに客観性を持たせるために、数値や成果といった基準を用いることにした。


 ……でも、それで測れるものだけが、本当に僕らにとっての「価値」なのだろうか?



 僕は、ずっとそれを考え続けている。





「成果が未来を作る」 新英総合学園

 ――そんなキャッチコピーが、パンフレットの表紙に、でかでかと書かれていた。


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◆ 教育理念

自律と成果を重視する「リアル社会接続型教育」

学びを“成果”として可視化し、社会で通用する力を養成

部活動を通じた組織運営・価値創造・課題解決能力の体得


◆ 学園制度の特長

部活動:企業体制:成果に応じた評価・予算配分制度を導入

部活株制度:各部に株式が割り当てられ、生徒は自部株を保有・運用可能

月次成果査定:財務・人的・社会的成果など複数項目により部活価値を数値化

(生徒会傘下の「成果監査委員会」が担当)

M&A制度:部活同士の合併・買収・統合を制度的に許可

個人評価:各生徒の所有株を卒業時に「決済」し、その収支にて評価

学内通貨:「成果ポイント」を学内のみで使える仮想通貨として運用


◆ 生徒の成長モデル

起業型:自ら新たな部活(事業)を創設し、価値創造に挑戦

投資型:有望部活の株を見極め、戦略的にポートフォリオを構築

実行型:既存の部内での努力を積み上げ、確実な成果を追求する


◆ 卒業後の進路支援

成果実績(個人決済収支)に応じた大学推薦枠の優遇・企業インターン斡旋制度あり


◆ 学園が目指す人材像

・組織を読み、動かし、成果を生む力を持つ「次世代の経営者型人材」

・競争を恐れず、変革を起こす「リーダーシップ人材」

・数字と情熱の両立を追求できる「バランス型プロフェッショナル」

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 僕は、パンフレットを放り投げて、つぶやく。


「結局、そこにあるのは誰の『成果』で、作られるのは誰にとっての『未来』なんだろうな……」


 この学園は、部活動が企業にみたいに扱われる、少し変わった学校だ。

 部活の成果は「部活株価」として数値化され、上がったり下がったりする。

 各部活は、校内外での成果によって、校内通貨的な「成果ポイント」を予算として与えられ、収益管理が求められる。

 その業績を参考に算出された「部活株価」の価格で、生徒たちは「部活株」の売買が可能となる。


 そして、卒業時に清算される個人の「成果ポイント」の過多によって、大学推薦や企業紹介等の優遇を受けることができる。


 言ってしまえば、学園全体が、「リアルなビジネス社会のミニチュア」みたいなものだった。


 究極の実力、成果主義。そう言えば聞こえはいい。


 でも、数字に出来るものだけが「価値」とされるこの学園で、生徒たちは自分を探して彷徨っていた。



 僕、間宮彗まみやけいは、ここに「自分の価値」を取り戻すために来た。個人主義の限界と歪みで、全てを失った僕にとって、それはリベンジだった。


 ――そして、彼女、朝比奈あさひなるいは、誰よりもはっきりと人間模様の響きを「視る」ことが出来るにも関わらず、それ故に誰よりも傷つき、自らを閉じ込めていた。



 これは、そんな僕と彼女の二人の小さなが、僕らの仲間たちと、この成果至上主義の学園全体を大きく震わせる物語だ。

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