6章真実と満開

その後、校長先生が来た。担任や学年主任や僕らの行動を生徒を通じて耳にしたのだろう。茹で蛸みたいな顔になって担任と学年主任を叱り、その場で退職命令が出されその後逮捕され、教員免許を剥奪されたらしい。

その後、高尾は今までのことを償うために明俊と別れ退学へ、高橋君と高尾を殴った彼らは1週間の自宅で停学処分となり、僕は事の発端だが今までのことが考慮され2週間の謹慎処分となった。そういえば学校側はいじめがあったと公表し、責任を取るため高尾理事長ら経営陣が辞任し、新経営陣の頑張りが運命を分けるというのをこの前ニュースで見た。


時間を遡行して2日目の放課後。

「君に色々聞きたいことがあるんだ」

僕の家で僕は真剣な声で伝えた。息が詰まる程張り詰めた空気だった。

「…、布団が吹っ飛んだ!」

明俊は渾身の面白くないダジャレで僕が身構えているのを見て気楽にさせようとしたのだろう。

「…、早速質問していい?」

一瞬場が凍りついたが、僕は気楽になった。

「ああ、分かった…」

彼はしょんぼりと頷いた。

「そもそも高尾と付き合い始めたきっかけは?」

彼が想像した質問とは違うらしく目を見開いて数秒間動かなかった。

「あっちが俺に一目惚れして何度も脅しのような告白を受けた末に俺が折れた」

そこまで言うと明俊は深くため息を吐いた。

「誰かをいじめる様になった原因は俺と話していた女の子に嫉妬した事らしい。最初は少し手を出していたが、それが段々エスカレートして自分は手を染めない様になった」

理由の部分を聞こうとしたら話された。

「良ければどんな告白されたのか聞かせてくれない?」

恐る恐る聞いてみた。目を伏せたので逆鱗に触れてしまったと僕は焦った。

「良いぜ。俺が知っているのは全部話す。言われたのは『弟を殺されたくなければ付き合って』とか『付き合ってくれないと君を監禁するよ』だな」

恐怖を感じてしまった。これは罪になるものだろう。体が震えてしまうと同時に桜子にはこんな子にはなってほしくはないなと思う。

「他にはなんかあるか?」

当の本人はヘラヘラしていて彼の精神が心配になった。

「心は大丈夫なの?」

僕がこの立場だったらすぐに人間不信になっていただろう。

「別に大丈夫だよ。ただ当時は警察に相談しようと思ったが、それもあいつは分かっていた。『警察に相談したら家族全員殺すから』とも言われた」

なんで僕は気づけなかった?こんなにボロボロの親友が寄り添おうとしてくれたのに僕は何かやったか?…何もしようとしなかった自分に怒りが湧いた。


「…願掛け桜今スゲー関心あるよな?」

「あるけど…」

彼は今の僕を見て話題を変えてくれた。

「なら話すか。…あの桜は、元々公園に植えられたただの白い桜だった。ある日から恋人が植物状態の高1の男子生徒が毎晩来る様になった。その人のお母さんが警察に連絡して彼を尾行する事になった。そして分かったのは2つ。一つ目は毎晩夜明けまで白い桜と話していた事。もう一つは帰り際に毎日葉っぱをもらっていた事」

「不思議だね」

「ああ」

彼は桜に選ばれたのか、はたまたナニカに取り憑かれたのかは分からないが、兎に角不思議な話だなというのが僕の感想だ。

「続けるぞ。それが2週間続いた帰り際、彼は枯れた花びらをもらった。そして翌日、恋人は目覚めた。この事を知った彼はその場で泣き崩れた後、感動を共有するために周囲の人に言った。そこから広まって『願掛け桜』と呼ばれるようになった。因みに余りの美しさから『麗桜』とも呼ばれているらしいぞ」

彼は言い終わった後その場に座り込んでしまった。

「へぇー、ありがとう。なんで桜子の花びらは8枚で僕のは枯れていたの?

明俊は一方的に喋ると座ってしまうので僕が立ち上がらせてお礼を言い更に疑問を重ねた。

「元々5枚で桜色だと完全に願いが叶う状態だがそれが既に少し叶っている状態だと花びらの枚数が6枚になる。ちなみに6枚以上はその人の願いへの想いの強さで決まるらしい。…、すまねえ。枯れた花びらの事は幾ら調べても判らなかった」

彼はそこまで言い切るとまた座り込んだ。

「ごめん、さすがに早口すぎたよな…」

どうやら自分の話す速度が早すぎて僕が嫌いになると思った様だ。

「全然聞き取りやすかったよ。凄く熱意が伝わってきた」

僕が笑いかけると彼は僕も笑っていた。

「良かった!お前に嫌われなくて!これで友達が離れるから不安でいっぱいで!」

彼は大泣きしていて数分後にはちょっとだけ五月蝿く感じた。友達が離れる理由は絶対にこれじゃん。

「どうしてあの時泣いていたの?」

僕は泣き止ませてからずっと気になっていた事を聞いた。

「俺は当時あいつの言いなりだった。どんな指示でも聞かないとまた監禁すると言われて従うしかなかった。それでも優人を見捨てろって言われて葛藤しちゃて、たとえ一時的でもお前を傷つけたく無かったんだ。…けど俺はやってしまった。今更だけどあんな事してごめん」

そこまで言い切った明俊はまた泣いていた。さっきからコイツ泣きすぎだろ…。けど僕も彼の真実を聞けて良かった。僕は彼に「言ってくれてありがとね。もう大丈夫だよ」と言った。

花びらがポケットから消えた。まぁもう使う理由も無いし。

色々あったがここで僕たちの計画は終わりとなった。


「高尾には渡せたの?」

学校に復帰してから最初の放課後、誰もいない空き教室で僕は尋ねた。

「最初の質問がそれか〜。…、うん!湊羽ちゃん、すごく喜んでくれたよ!」

目を輝かせながら答え、嬉々として笑顔で僕に伝えてくる。そんな桜子を見ているとなんだか僕も嬉しくなってくる。

「良かったね」

とにかく渡せたのなら良かった。話を聞くに2日目の放課後にあの場所でサプライズで渡したら、ぎこちない笑顔で泣きながら「ありがとね、桜子」と言ったらしい。その後すぐに解散したらしいが今でも度々連絡は取っているらしく関係が徐々に修復されていて嬉しくなった。

それから話題が無くなり少し無言の時間が流れた。

「ねえ、桜子」

「うん?どうしたの?」

心臓がうるさい。彼女は僕にいつも通り微笑んでくれた。やっぱり僕は彼女が大好きで堪らない。2週間この笑顔をどうすれば守り通せるか考え抜いていた。

「君が大好きです。僕と付き合って下さい!」

その結果が告白だった。

「こんなわたしで良ければよろしくね」

彼女は真っ白な笑顔で言うから嬉しくなって思わず泣いてしまった。彼女は僕を泣き止むまで撫でてくれた。返事までの時間は現実で5秒だが体感では永遠だった。

その後、僕らは学校を出て手を繋ぎながら家へと向かった。隣にはいつも満開の桜がいて、何かあったら2人で支え合っていく。僕はその想いを胸に彼女の手を強く握った。

「その顔可愛いね」

上目遣いの桜子が可愛すぎてつい出てしまった。

「ありがと…」

彼女が恥ずかしそうな顔をする。その顔が可愛らしくて無意識に微笑んでいた。

…こんなしあわせがえいえんにつづくとしんじて。

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