第34話 怪鳥ガルーダの巣にて2
「なんだか、おもしろいことになっていますわね」
それが、ガルーダの巣の中を初めて見たローゼリンデの感想だった。
木の枝や羽を材料にして作られた大きな巣は、頑丈で安定している上にふかふかしている。
ガルーダの習性なのか、巣の中にはキラキラ光るお宝の山が積まれていた。
そして端の方には、人間が四人――男性ふたり、女性ひとり、男児ひとりが、ガルーダの羽毛まみれになって座っている。
そこにローゼリンデとマーブルが加わったわけだが、それでも巣はまだ十分な広さがある。
意外なことに、なかなか居心地がよさそうだ。
ただし、それは寒さを除けばの話。巣は山の天辺にあり標高が高く冷たい風が吹きすさぶため、とても寒い。
だから捕まった村人たちは、羽毛まみれになっているのだろう。
ローゼリンデはマーブルに寄り添った。
マーブルの脇腹が温かくて寒さが少し和らぐ。
ガルーダに掴まれたマーブルとともに上空高い位置まで連れていかれた時は、生きた心地がしなかったローゼリンデだ。
この高さから落とされたら死んでしまうと、必死に手綱を握り締めることしかできなかった。
巣に到着したら食べられてしまうのかと思いきや、ガルーダはとても優しく下ろしてくれた。
丁重に扱われていることに戸惑っているうちに、ガルーダはまたどこかへ飛んで行ってしまったのだ。
この隙にと、ローゼリンデは四人に声をかける。
「みなさんはヒマル村の方々でいらっしゃいますよね」
「そうです」
村人たちは頷いた。
「申し訳ございませんでした。ガルーダの暴走は、わたくしのせいなのです」
魔族に乗っ取られた村を救うために、この一帯で暴れ回ったのがいけなかったようだと説明し謝罪した。
すると、大人たちは顔を見合わせて首を横に振る。
「あなたのせいだけではありません」
「今年になって、やたらと魔族が空を飛び交っている姿も見かけます。それもあったと思います」
どうやらガルーダが落ち着きをなくす要因がほかにもあったようだ。
だからといって、ローゼリンデの気が晴れるわけでもない。
とにかくこの四人を無事に村へ帰すことと、村人を攫うのをやめるようガルーダを説得しなければならない。
この巣は高く切り立った岩山の頂上にある。
自力で巣の外に出ることはできても、山を無事に下りきる前に転落してしまいそうだ。
となると、ガルーダに協力してもらって麓に下ろしてもらうほかないだろう。
男の子が不安げな顔で震えている様子に、ローゼリンデはいたたまれない気持ちになった。
ヒマル村で泣き叫んでいた女性の姿を思い出す。
早くあの母親のもとへ帰してやりたい。
巣が大きな影に覆われたと思ったら、ガルーダが戻ってきた。
クチバシや足にたくさんの木の実をぶら下げている。
よく熟れていて美味しそうだ。
どういうつもりだろうかと眺めていると、ガルーダはひとりひとりに木の実を配りはじめるではないか。
もちろん、ローゼリンデとマーブルにも。
「どうぞ召し上がれってことですの……?」
手のひらにのった赤い木の実とガルーダの大きな目へ交互に視線を移すローゼリンデに、ガルーダはクルルッと喉を鳴らす。
大きな金色の目は、うれしげに輝いている。
ここで冷たい風がビューッと吹き抜けた。
「くしゅんっ!」
くしゃみをして鼻をすするローゼリンデの姿に、ガルーダがハッとした顔をする。
寒そうにしていると気づいたのか、慌てて胸のあたりの柔らかい羽をくちばしで抜いて寄越してきた。
さらには、風が当たらないように翼を広げて風よけになってくれている。
(なんて甲斐甲斐しいのかしら!)
マーブルも羽をたくさんかぶせてもらって、少し迷惑そうな顔をしている。
深い緑色の羽は光沢があり、構造色が煌めいてきれいだ。
「ふふっ。マーブル、よくお似合いよ」
思わず笑いを漏らすと、マーブルは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
その横で、女性が男の子に話しかけている。
「食べても大丈夫よ。普通の木の実だから」
促された男の子は、おずおずと木の実を一粒食べる。
美味しかったようで、次はふた粒まとめて食べて少し明るい表情になった。
「ガルーダさんは、わたくしたちに食べ物を提供してくださるの?」
まさか太らせてから食べる気だろうかと、嫌な予感が脳裏をよぎる。
「そうなんです」
男性のひとりが答えた。
「最初は虫や小動物を持ってきたんですが、食べられないと言うと木の実を採ってくるようになったのです」
もうひとりの男性が言い添える。
「夜は俺たちが凍えないように温めてくれるんだ」
「それではまるで……」
ローゼリンデはキョトンとした顔で思いつくままに言った。
「子どものお世話をしているようですわね」と。
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