僕のお隣さんはとてもかわいいという言葉では表し切れない。

萩塩

第一章

1-0:「僕とお隣さん」

 大学生にもなれば、一人暮らしというのは特段珍しいものではない。


 何を隠そう、この僕、佐藤さとう一輝かずきもこの春の大学進学を機に地元を離れて某市内のアパートに一人暮らしを始めた。

 大学生というものは僕が以前に予想していたよりもはるかに忙しく、大学で講義を受けてアパートに帰って食事を摂ったら死んだように眠る。そして朝早く起きて大学へ行く。この繰り返しである。

 ひと月もすれば慣れてくるだろうと思っていたがむしろ疲れは溜まっていく一方で、世間はゴールデンウィークに突入しようとしているなか、僕は大学が休みになることに喜びを感じていた。


 そしてこのゴールデンウィークから、僕とお隣さん・・・・の関係が始まったのである。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 4月29日。昭和の日。世間一般的にはこの日からゴールデンウィークの幕開けと言われる。

 僕が通う大学もこれから一週間程度の休みに入り、大学生は帰省やら遊びやらに励み、観光地は人でごった返す。どこの観光地だか知らないが、ネットニュースでは観光客にもみくちゃにされるレポーターさんの様子が取り上げられていた。


 高校生の頃は休みの日に自宅でひとりアニメ鑑賞会を開催していたものだが、一か月の間に大学生の厳しさを思い知った僕は何かをするわけでもなくただ布団に寝転がってだらだらと過ごしていた。時刻は昼の11時を回ろうかという頃に、自室のインターホンが鳴る。


 不思議な感覚だった。何せ、今までこの部屋のインターホンの音を聞いたことがなかったからだ。僕がこの部屋に入居して以来、初めて仕事が回ってきたインターホンくんはさぞ喜んでいることだろう。

 それはともかく、鳴らされたインターホンを放置するわけにもいかないので僕は応対する。


「……もしもし?」


 おそるおそる声をかける。訪問者に心当たりがなかったからだ。大学で会話をするような人はある程度いるが、家を教えた人はいない。となれば家族かと思ったが、家族はアポなしで来るような人ではない。であれば誰が──。


『初めまして、隣に越してきました蒼井あおい若葉わかばと申します。』


 かわいらしい声がインターホンを通じて聞こえてきた。なるほど、お隣さんらしい。今まで僕以外の入居者を見かけなかったんだけど、どうやらちゃんと存在していたらしい。


『よろしくお願いしますね』


 僕が大学に進学して初めて女性と会話した瞬間であった。

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