鉄翼のハルピュイア

反田種苗

第1話

拘束具 = 外れる

肉の腕 / 反転 = 鉄の翼

肉の脚 / 反転 + 関節が軋む = 猛禽の形

脚 = 振り上げる / 振り下ろす

対象 = 拘束具を外した兵士

殺されたいと思った = 殺してくれると思った

兵士 = 崩れる / 飛び散る血飛沫

飛ぶ —— 次の兵士の元へ

軌道 = 弾丸 / 減速 / 着地

脚 = 振り上げる / 振り下ろす

銃を向けられると思った = 弾丸を心臓に撃ち込んで欲しいと思っていた

しかし銃声は、なかった

視線が 07号 を撃ち抜いてきた

その目には、“恐怖”があった

07号 には、それが“裏切られた”ように感じられた

07号はさらに弾丸のような軌道で飛ぶ

生きている兵士の元へ降り立つため / 自身が殺されやすい位置に

減速 + 羽が鳴る

兵士 = 反応が追いつかない

07号 = 自身の反応速度が常人よりも早過ぎることに気がつけない

爪 / 振り下ろされる

兵士 = バターのように滑らかに割ける= さらに死体が積み上がる

何度か繰り返した末、生きている人間がいなくなった

07号 = 番号で呼ばれるが、数は数えられない

しばらくして、07号 は飛空挺が落ちていることに気がついた

死にたがりの 07号 は、生きるために脱出することにした

飛空挺 = 斜めの軌道 / 落ちる死体

銃火器 / 金属片 = 火花を散らして落下

飛空挺内 = 炎 + 空気 = 燃え上がる

07号 = 上へ / 空へ / 高く

障害物を避けながら、飛翔、脱出


青空の下、07号 は燃え墜ちていく飛空挺を眺めていた

やがて墜落し、炎が広がるのを見届けてから

鉄翼を羽ばたかせ、帝国とは反対の方角へ飛んでいく

返り血を浴びた部分 = 乾く + 鉄羽に違和感

本能的に、水浴びができる場所を探し、発見

減速 / 湖のほとりに降り立つ

猛禽の脚 = クッションの役割

着衣のまま湖に浸かり、水中で鉄翼を羽ばたかせ、返り血を洗い流す

一度、湖の外に出て、鉄翼を反転 = 肉の腕

濡れた服を脱ぎ、その場に置く

再度、湖の中へ

鉄の脚の汚れ = 指で擦り取る

爪の隙間に残った肉、皮膚にこびりついた血

脚が綺麗になった後、服を湖に入れ、擦り合わせる

突如/気配

茂みの向こうから/視線

視線が交差 = 戦いの合図

敵 = 軍服 / 血走った目 / 土気色の顔 / 両手に包丁

07号 = 肉の両腕を反転 = 鉄翼

敵 = 07号に突進

07号 = 片翼で受け止め / 両手の包丁を弾く

もう片方の翼 = 敵の腹から胸まで切り上げる

敵 = 怯まない

腰のベルトから肉切り包丁を取り出す

07号の頭部めがけて振り上げる

07号 = 切り上げた片翼で包丁を弾く

片脚 / 上げる = 敵の顔の高さ

爪、展開 = 敵の頭頂から顎先までを掴む

そしてトマトのように潰す


「ああ、敗残兵の匂いがする」

声 = 07号の真後ろ

気配 = ない / 気がつけない / 殺される

「殺す気はないよ、敗残兵。可哀想な敗残兵」

「だ……れ……?」

「お前と同じ、敗残兵だよ」

07号 = 振り返る / 声の主を見る

声の主 = 小柄 / 黒い長髪 / 痩せぎす / 輝くアパタイト色の瞳

「はい……ざん……へい……?」

「ああ、私たちには名前がない。だから、そう呼び合うしかないだろう?」

小柄な少女 = 喉を鳴らして笑う

笑い慣れていない + ぎこちない

それでも、笑い声は漏れた

07号 = 首を傾げる

「しきべつ……ばんごう……ある」

「誰が、何を、識別するんだ?お前も、私も、帝国の兵士を殺した。もう戻れない」

小柄な少女 = 07号を襲った死体を一瞥

「それにしても、芸のない兵士だったな。強化兵の中でも、不完全な個体だったのかな?」

07号 = 再び、首を傾げる

「ああ、そういえば。せっかく洗ったのに、また汚れてしまったよ。敗残兵。もう一度、洗ってくるといい」

07号 = 頷き湖へ

小柄な少女 = 火の用意

枯れ枝 + 火打ち石 = 着火

07号 = 水から戻る

炎 = 音を立てて燃える / 湿った空気が揺れる

湯気 = 肩から / 腕から / ゆっくりと立ちのぼる

小柄な少女 = 炎を見つめる / 頷く

07号 = コート / 手渡される

「お前の服が乾くまで、私のコートを羽織るといい」

小柄な少女=軍服姿

しばしの沈黙が訪れる

小柄な少女 = 炎を見つめたまま、呟く

「あの飛空挺を落としたのは、お前か?」

07号 = 逡巡 / 首肯

「なんで?」

07号 = 逡巡 / 口を開く

「しに……たかった。……ころす……ふり……したら……じゅう……うつと……おもった」

小柄な少女 = 再び、喉を鳴らして笑う

飛空挺内で何があったのか、察したらしい

それでも、なおも笑い続ける

「その結果が、あれか。本当に死にたかったのなら、飛空挺と心中すればよかったのに」

小柄な少女 = 07号を見つめる

「だけどお前は、生きることを選んだ。さっきの兵士も殺した。生きるために」

小柄な少女 = 笑みを浮かべる

「やっぱりお前は、敗残兵だ」

小柄な少女/腕を組み思案+小さな口を開く

「さて、これからどうしたい?」

07号/即答

「わから……ない」

「私は遠くへ行きたい。お前はどうする?」

07号/首を傾げる

「私についてくるか?」

小柄な少女/穏やかに問いかける

07号/首肯

「そうか。なら、人間に擬態しないとな。人間らしい名前を考えよう」

小柄な少女 = 少し嬉しそうに微笑む

「お前は、07号だろ?ハルピュイア型で唯一の成功例だって話題になっていたよ」

07号 = 戸惑い

言葉が出てこない = 何を言えばいいのか分からない

小柄な少女 = 口の中で数字を転がす

「ゼロ、ゼレ、ゼラ。セプト、セブティマ、セーナ……」

小柄な少女/少し笑って

「うん、ゼレナ。お前は今日からゼレナだ」

「ぜ……れ……な……」

ゼレナ = 口の中で自身の名を転がす

小柄な少女 = 火を見つめながら、小さく言う

「私は、ライカンスロープ計画で唯一の生き残りだから」

小柄な少女 / 思案

「ライカだ。言ってみろ」

「ら……い……か……」

ゼレナ = 噛み締めるように呟く

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