堕天使より、死に損ないの君へ

星澄べが

エピローグ

 オーロラとでも形容しようか、眩い彩色を放ちながら、眠っているように目を閉じている男子高生の亡骸の上をふよふよと漂うこの球体は、所謂魂というものである。そしてこれを処理、つまりは天界へと導くのが我々天使の職務だ。魂はとても繊細で、これの扱いには尋常でない神経を使う。唇を噛みつつ目の前の魂へと意識を集中させる。が、その時視界の隅を何かが煌めきながら通り過ぎた。あたりを見渡すがそれらしきものは見当たらない。この男子高生と親交が深かった人物の魂か何かだったのだろうか。そんなことを考えつつ、もう一度目の前の亡骸へと視線を落とす。


「っ!?しまった、」


 先ほどまで天使が扱っていた魂は器、すなわちその魂の本来の持ち主である亡骸の中へと沈みこんでいく。これでは一度は死んだこの男子高生が生き返ってしまうではないか。言うまでもなく、死者の蘇生は天使の禁忌に該当する。


「え、ちょ、っとまって…」


 慌てて魂へと意識を集中させるも時すでに遅し、その球体は自身から発する輝きをその亡骸の中に完全に仕舞い込んでしまった。


 天使は絶句し、その亡骸を呆然と眺める。すると、ついさっきまで亡骸でしかなかったその少年の瞼が軽く痙攣し、口からは寝息とも呻き声とも取れる声が漏れる。まずい。この少年が目を覚ます前に早くこの場を離れなければ。ただでさえ既に一つ禁忌を犯したというのに、人間に天使の存在さえもばれてしまうとなると、本当に首が飛びかねない。これが比喩だったら良かったのだが、残念ながら天界は厳しい世界であるし、抑々今はこんなことを悠長に一人考えている暇もない。天使は少年から無理やり視線を引き剥がすと、半ば逃げるようにその場を離れた。

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