宿題そのいち、日記

織田紺

日記(×月×日×よう日) たかはしやまと


先生あのね、今日はあさに、お母さんから「夜ごはんはハンバーグだから早めにかえってきてね」って言われたよ。

まえに作ってくれたのはぼくのたん生日だったから、×か月くらいまえ!ひさしぶりだからとってもうれしくって、今日の学校はずっとそわそわして、おちつきなさいって先生をしょっちゅうおこらせちゃいました。ごめんなさい。だってずっとハンバーグたのしみだったから。

それで、家にかえったらかぎがあいてなかったです。いつもはお母さんがいるし、ぼくにはやくかえってねって言ってたのに。でもげんかんのポストの下にかぎをこっそりかくしておいたから、お母さんがいえにいなくても入れるんです。えらいでしょ。

げんかんをあけたら、いいにおいがしました。ハンバーグのやけるにおいです!お母さんにいつも言われたとおりに手をあらって、うがいをして、キッチンのとびらをあけました。そのときにちゃんとあいさつもしました。「お母さん、ただいま!」って。

でもお母さんはいなかったです。いいにおいのできたてほかほかのハンバーグと、お母さんのかきおきがありました。お母さんはいつもいえにいるって言ったけど、ときどきかいわすれたものがあると言ってスーパーに行くことがあります。そのときはかきおきとおやつをおいていっていくのですが、今日はおやつじゃなくてハンバーグでした。お母さんのかきおきをよむと、いつものとおり、「かいわすれたものがあるのでスーパーに行ってきます。おやつはれいぞうこの中です」とかいてありました。お母さんまちがえちゃったのかな。れいぞうこにはおやつがはいってなかったので、かきおきのよこにあったハンバーグをたべました。おいしかったけど、まえにたべたのとちがう味がしました。パパとやきにく行ったときの、レバーみたいな味です。ハンバーグてレバーがはいってるんだなぁとおもいました。先生は、レバーのはいってるハンバーグはすきですか?

おやつもたべたので、おふろにはいって、しゅくだいして、日記をかいてます。お母さん早くかえってこないかなぁ。夜ごはんもハンバーグがいいけど、ちがう味もたべたいっていうつもりです。今日はパパもはやめにくるってお母さんがいってたので、何かのおいわいかも。たのしみです。


――――――――――――――――


上記は、高橋大和(当時6歳)が次の日に提出した日記の内容である。大和が数日ひとりで過ごしていたが、以降の日記には母やパパの話題が普段と同じく登場しており、違和感はない状態であった。

日記が書かれた当日より、大和の母・綾子(37)は行方不明となっていることが交友のある近隣住民が通報したことにより発覚。

また、パパとは、綾子の交際相手・志村勇(25)と推察されるが、彼は日記の数日前より行方不明となっている。



追記:

×月△日(×)に○○山麓の県道にて男性が倒れていると通行人が通報。かけつけた警察がポケットに入っていた財布の中から免許証を発見し、志村勇と断定。その後病院へ運ばれたが、数時間後に死亡した。

志村勇が持っていたカバンに入っていたスマートフォンはメモアプリが起動しており、以下の内容が記載されていた。


「おれは高橋綾子を殺した。別れたいと言ったら包丁もって襲ってきて、気が付いたら死んでいた。死体はそのままにした。怖くなって逃げた。ハンバーグのことはしらないおれじゃない。」


なお、調理器具には使用した形跡がなかったという。

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