細やかな我儘

天ノ川夢人

我儘の定義

安心感のある生活空間で、

決まった場所に座り、

決まった場所で休憩する事を、

勝手に自分の指定席にしていると、

悪く取られる事がある。

行きつけのレストランや

喫茶店やバーで

毎回同じ席に座る客人の事を

店主が尊重してくれる事もある。

その人は他の多くの席に

気紛れで座る事はない。

中には一番見晴らしの良い

レストランの席を

自分の指定席とする金持ちもいるけれど、

彼は行きつけの飲み屋の

一番端の席に座り、

一人酒を楽しむ。

それが或晩、

いつもの行きつけの飲み屋に行くと、

彼の席にガタイの良い勤め人の男が

自分の席に座っていて、

彼は戸惑う。

彼はその客に

自分に席を譲ってもらいたくとも、

自分が大変な我儘に思えて、

黙って彼の後ろに立ち尽くす。

彼が店主と目が合うと、

店主はその客人に

彼の席を譲ってもらおうとする。

彼はその特別待遇に耐えられない。

彼は自分の我儘を押し通さず、

神様から与えられた指定席に

終わりの時期が来たのだと思い、

黙って店を出て、

新しい飲み屋を探す。


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細やかな我儘 天ノ川夢人 @poettherain

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